春来(き)ぬと人は言へども鶯(うぐひす)の鳴かぬかぎりはあらじとぞ思ふ
出典
古今・春上・一一
訳
春がやってきたと人は言うけれども、うぐいすが鳴かないうちはまだ春ではあるまいと私は思うことだ。
注
「春来ぬと」の「ぬ」は完了の助動詞。
(『三省堂 全訳読解古語辞典』「ぬ」)
◆関連情報
今回は、立春にまつわる歌です。この歌には、「ぬ」が二回出てきますが、それぞれどんな意味になるでしょうか。
「ぬ」の意味の識別は古典文法の中でも重要事項であるため、入試でしばしば出題されています。『三省堂 全訳読解古語辞典』で「ぬ」(915p)を引くと、「ぬの識別」表があり、識別するためのポイントが一目でわかりますので、一度辞書を引きながらじっくり考えてみましょう。
915pの識別表にまとめられているように、①完了の助動詞「ぬ」の終止形の場合は、識別のポイントは「連用形に接続」していること、そして「文がそこで切れる。引用の「と」を受け下に続く」ことです。また、②打消の助動詞「ず」の連体形である場合は、「未然形に接続」していること、「体言を修飾する」ことが識別のポイントとなります。
上の和歌の1回目の「春来ぬと」の「ぬ」は、連用形「来(き)」に接続し、さらに下に引用の「と」があり、そこで文が一度切れています。よって、①完了の助動詞「ぬ」の終止形であるとわかり、「春がやってきたと」と訳します。
一方、2回目の「鳴かぬかぎりは」の「ぬ」は、未然形「鳴か」に接続し、さらに下に「かぎり」が続いていますので、②打消の助動詞「ず」の連体形であるとわかり、「(うぐいすが)鳴かないうちは」と訳します。
「ぬ」の識別パターンを覚えるための例文として、この和歌を覚えておくのも良いですね。