(菊武学園タイプライター博物館(15)からつづく)
菊武学園タイプライター博物館には、「Blickensderfer No.5」が複数台、展示されています。中でも、写真に示す「Blickensderfer No.5」は、さすがに完動はしないものの、状態は比較的よく、本体の右奥には製造番号「35149」がハッキリ刻印されており、1898年の製造だと推測されます。
「Blickensderfer No.5」は、ブリッケンスデアファー(George Canfield Blickensderfer)が、1893年から1900年頃にかけて、コネチカット州スタンフォードで製造したタイプライターです。「Blickensderfer No.5」の特徴は、タイプ・ホイール(type wheel)と呼ばれる金属製の活字円筒にあります。タイプ・ホイールには84個(28個×3列)の活字が埋め込まれており、このタイプ・ホイールが、プラテンに向かって倒れ込むように叩きつけられることで、プラテンに置かれた紙の前面に印字がおこなわれるのです。
菊武学園の「Blickensderfer No.5」(製造番号35149)のタイプ・ホイールでは、上の列に、小文字の活字がzxkg.pwfudhiatensorlcmy,bvqjの順序に、上から見て時計回りに埋め込まれています。真ん中の列には、大文字の活字がZXKG.PWFUDHIATENSORLCMY&BVQJの順序に埋め込まれています。下の列には、記号や数字の活字が-^_(./’”!1234567890;?%¢$)@#:の順序に埋め込まれています。この「Blickensderfer No.5」のキー配列と同じ順序であり、上段のキーほど、タイプ・ホイールが大きく回転する仕組みになっているのです。大文字はキーボード左端の「CAP」キーを、記号や数字は「FIG」キーを、それぞれ押すことで印字され、実際にはタイプ・ホイールの高さが変わる仕掛けになっています。
このように、精巧な印字機構を持つ「Blickensderfer No.5」ですが、印字精度を上げるために、タイプ・ホイールがプラテンにかなり接近して配置されています。また、84個の活字を3列に収めるタイプ・ホイールは、思いのほか巨大なものであり、印字直後の文字はオペレータから必ずしも見えません。タイプ・ホイールの横から覗き込むか、何文字か打った後に見えてくる、というのが現実でした。また、高速な印字にも適しておらず、その結果、なかなかシェアを拡大できなかった、というのが現実のようです。