(菊武学園タイプライター博物館(14)からつづく)
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「Crandall New Model」は、クランドール(Lucien Stephen Crandall)が1886年から1894年頃にかけて、ニューヨーク州グロトンで製造したタイプライターです。「Crandall New Model」の特徴は、タイプ・スリーブ(type sleeve)と呼ばれる金属製の活字円筒にあります。タイプ・スリーブには84個(14個×6列)の活字が埋め込まれており、このタイプ・スリーブが、プラテンに向かって倒れ込むように叩きつけられることで、プラテンに置かれた紙の前面に印字がおこなわれるのです。

菊武学園の「Crandall New Model」のタイプ・スリーブでは、一番上の列に、小文字の活字がzprchmilfesdbkの順序に、上から見て時計回りに埋め込まれています。その次の列には、小文字の活字がjvxunw.,toagyqの順序に埋め込まれています。「Crandall New Model」のキー配列と同じ順序であり、外側のキーほど、タイプ・スリーブが大きく回転する仕組みになっているのです。また、タイプ・スリーブの3番目の列には、大文字の活字がZPRCHMILFESDBKの順序に埋め込まれており、その次の列はJVXUNW.,TOAGYQです。これらの大文字は「CAP’S」キーに対応しています。同様に、タイプ・スリーブの5番目の列と一番下の列は、「F.&P.」キーに対応しています。
「Crandall New Model」では、印字がプラテンの前面でおこなわれることから、印字した文字が、すぐ直後にオペレータから見えるようになっています。また、タイプ・スリーブの交換は、オペレータが簡単におこなえるようになっており、別の種類の活字や字体に対応可能、というのが売りでした。ただ、タイプ・スリーブを回転させる機構は、とても繊細なもので、正確な回転には常に調整が必要でした。結果として、「Crandall New Model」は高速な印字には適しておらず、しかも故障が発生しやすい、という弱点がありました。なお、菊武学園の「Crandall New Model」は、スペースキーの奥に「17325」という製造番号が記されており、かなり後期の製造だろうと推測されます。
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