(菊武学園タイプライター博物館(16)からつづく)
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「The Chicago Typewriter」は、シカゴ・ライティング・マシン社が、1899年頃から1912年にかけて製造したタイプライターです。元々は「Munson No.3」と呼ばれていたタイプライターで、1897年頃から製造されていたのですが、1899年にブランド名を変更したようです。

「The Chicago Typewriter」の特徴は、タイプ・スリーブ(type sleeve)と呼ばれる金属製の活字円筒にあります。タイプ・スリーブには、90個(5+5個×9列)の活字が埋め込まれています。菊武学園の「The Chicago Typewriter」のタイプ・スリーブでは、各列の活字は、%¢@#* &”:!;、12345 67890、$⅛¼½£ ‘_/()、qzxcv bnm,.、werty uiop?、asdfg hjkl-、QZXCV BNM,.、WERTY UIOP?、ASDFG HJKL-、と並んでおり、そのままキー配列に対応しています。菊武学園の「The Chicago Typewriter」のキー配列は、QWERTY配列に近いものの、Qのキーが下段の左端にあるのです。

タイプ・スリーブと紙の間には、インクリボンと金属製スリットがあります。上段の各キー(wertyuiop?)を押すと、タイプ・スリーブが左右に移動して、金属製スリットの穴の位置に、押されたキーに対応する活字が来ます。その瞬間に、紙の背後からハンマーが打ち込まれ、紙の前面に印字がおこなわれるのです。中段のキー(asdfghjkl-)の場合は、左右移動に加えて、タイプ・スリーブが上に40度回転することで、穴の位置に対応する活字が来ます。下段のキー(qzxcvbnm,.)の場合は、左右移動に加えて、タイプ・スリーブが下に40度回転することで、穴の位置に対応する活字が来ます。さらに、「CAP.」キーと「FIG.」キーが、タイプ・スリーブをそれぞれ上下に120度回転することで、90種類の活字を打ち分けられるようになっているのです。

なお、菊武学園の「The Chicago Typewriter」には、「CHICAGO TYPE WRITER Co Ld」「92,Queen St CHEAPSIDE」と金文字で記されています。この住所は、ロンドンのテイラー・タイプライター社(Taylor’s Typewriter Company)のものであり、したがって、この「The Chicago Typewriter」は、イギリス輸出向けモデルだったと推測されます。