『三省堂国語辞典』は「新語をたくさん載せている」と言われます。そう宣伝もしています。でも、その「新語」が、いわゆる新語辞典に載っていることばのことだと思われているなら、それは不正確だと言わなければなりません。『三国』は、「国語辞典プラス新語辞典」というわけではないのです。
新語辞典に載っていることばは、ニュースとして目や耳に入ることばです。たとえば、『現代用語の基礎知識 2008』の「日本政治」のページを見ると、「ねじれ国会」「官邸主導」「教育再生会議」「御手洗ビジョン」「事務所費問題」……などのことばが並んでいます。でも、その多くは今回の『三国』に入っていません。これらは、現代を理解するための重要語ではありますが、いわば旅人のようなことばです。しばらく日本語という町に滞在して、遠からず去って行くとみられることばです。
一方、『三国』の「新語」は、日本語に住民として入ってきたことばです。「裏紙」「かけ流し」「がらがらぽん」「除菌」「出禁(できん)」「パワハラ」「マル得」「もったり」「利雪」など、いずれも、私たちがこの先いろいろな場面でつきあうと見込まれることばです。ここに挙げた例を含め、むしろ新語辞典にはないことばが大半です。
これらのことばは、新しくて人目を引くから辞書に載せたのではありません。いつの間にか使われだした、じみなことばも丹念に拾いました。今の日本語にどういう住民が住んでいるか、それを広く観察した結果、以前から住み着いていることばも、新入りのことばも、はでなことばも、じみなことばも、平等に取り上げたのです。
第六版では「こたび」(このたび)という古風なことばも採用されました。これは、他の辞書のように、古典語として載せているわけではありません。
〈こたびは敵となって相まみえたが、〉(NHK「大河ドラマ・義経」2005.1.9 20:00)
のように、今の時代劇や時代小説でよく使われるという理由で載せているのです。ほかに、「ありき」(結論ありき)「家づと」「恵送」「嗜癖(しへき)」など、古風なことば、硬いことばも多く入りました。どれも今の日本語として用例があるものばかりです。
『三国』は、今の日本語の全体像を描き出そうとしています。今、生きて使われていれば、古くからあることばも、新しいことばも、『三国』に載る資格は十分です。