『三省堂国語辞典』の兄弟分の辞書に『新明解国語辞典』があります。略称、新明国。人々の間には「新解さん」の愛称も広まっています。
『三国』と『新明国』とは、同じ辞書(『明解国語辞典』)から分かれ出たものですが、語釈のしかたを見ると、大きな特徴の違いがあります。
『新明国』の語釈は、よく話題になるとおり、ことばの微妙な陰影をうまく表し、思わずにやっとしてしまうものが多くあります。たとえば、「暴れん坊」を引くと、子どもの暴れん坊の説明の次に、〈青春のはけ口を活発な行動に求め、時には世人のひんしゅくを買いかねない人。〉とあります。なるほど、暴れん坊の若者は、あれは青春のはけ口を求めているわけか、と妙に納得します。『三国』では、この項は〈乱暴な行動をする男。あばれんぼ。〉とかんたんです。
こういうところを見ると、『三国』はつまらないではないかと思われそうです。しかし、このような部分にこそ、『三国』の編集の苦労があります。まず、「あばれんぼ」の語形もあることを示したのは、私の調べた範囲では『三国』が最初です(第三版から)。そして、語釈がかんたんに書いてあることによって、「暴れん坊将軍」「政界の暴れん坊」などの場合にも広く当てはめることができるという長所があります。
『三国』の語釈の方法は、読む人の胸にすとんと落ちるように、かんたんに書くことです。たとえば、植物の「アザミ」はこうです。〈とげの多い野草の名。タンポポに似た赤むらさき色の花をひらく。〉つまり、アザミは、タンポポにとげをつけて、花の色を赤紫にしたと思えば、まあ間違いないと言っているのです。たしかに、どちらもキク科の植物ですから、根拠はあるわけです。
今回、「国際海峡」ということばが載りました。このことばは、もともと条約で定義された用語です。〈公海又は排他的経済水域の一部分と公海又は排他的経済水域の他の部分との間にある国際航行に使用されている海峡〉というのですが、非常にややこしく、誤解されやすい定義です。『三国』ではこれを〈一国の領海に属するが、迂回(ウカイ)しにくいために、国際航行に使われる海峡。〉としました。読者の胸にすとんと落ちれば、さいわいです。