街で「キャリーバッグ」と称するものを引きずって歩く人を多く見かけるようになりました。『三省堂国語辞典 第六版』では、類書に先がけて新規項目に採用しています。
〈旅行などに持っていく大形のバッグ。車がついて、ひきずって歩けるものも ふくむ。〉
もっとも、この語釈を読んで、「なんだか遠慮がちな書き方だ」と思う人もいるかもしれません。「〈……ものも ふくむ〉とあるが、ごろごろ引きずって歩くのが、むしろふつうではないか?」という指摘がありそうです。
原稿では、当初〈……ものが多い〉としていました。でも、考えた末に直したのです。
今でこそ、Google で「キャリーバッグ」を画像検索すると、引きずるバッグの写真ばかり出てきます。でも、少し前までは違いました。2007年の初めに検索したところでは、「『車・取っ手つき』のものは、ある程度あった」(当時のメモより)ものの、ほかにもさまざまな種類のバッグが出てきました。新聞記事にも、〈ハンドルを引いて、ごろごろ転がして使う〉と説明するものがありましたが、別のバッグを指す用例もありました。
そもそも、「キャリー」は「持ち運ぶ」ということですから、キャリーバッグの形態はいろいろありえます。英語版 Google で「carry bag」の画像を検索すると、肩掛けかばんなど、多種多様なものが出てきます。新幹線車内の電光掲示板では、日本語の(引きずる)「キャリーバッグ」は、英語では「rolling luggage」となっています。
かばんに関する専門のムック『鞄スタイル』の第1号(2006.12)を見ると、引きずるバッグは「トローリーケース」と称しています。ほかにも「キャスター付きラゲージ」「キャリーケース」などともあり、一定しません。かえって、肩掛けかばんの呼び名のひとつに「キャリーバッグ」が使われています。
ところが、約半年後の『鞄スタイル』第2号(2007.7)では、「キャリーバッグ大集合!」という特集が組まれ、載っている写真のほとんどは引きずるバッグです。このムックでは、この号を境に「キャリーバッグ」の定義が変わったものと見えます。
『三国 第六版』の記述は、原稿執筆当時の微妙な状況を踏まえたものです。とはいえ、その後は、ごろごろ引きずるバッグを「キャリーバッグ」と言うことがかなり一般化しました。今から考えると、もう少し断定的に書いておいてもよかったところです。