公園の池などで見かける鳥の中に、バン(鷭)というのがいます。俳句などにも出てくるので、『三省堂国語辞典 第六版』に採用しました。全身黒みがかった褐色の鳥で、くちばしが赤く、先が黄色をしています。人の笑い声に似た声で鳴きます。
もっとも、こう説明しただけではうまく伝わらないかもしれません。読者の中には、鵜飼いのウのように大きな鳥か、あるいは反対に、手のひらに乗るような小さな鳥を思い浮かべる人もいるでしょう。大きさに関する説明をしていないからです。
動物のイメージを伝えるうえで、大きさは大事な要素です。同じ黒い鳥でも、大形(おおがた)か小形かによって、話はだいぶ変わってきます。ところが、大きさの感じ方には主観的な面があって、説明する人によってばらつきが出てしまいます。「何センチメートル」と数値で示せばよさそうですが、必ずしも具体的なイメージに結びつきません。
そこで、バードウオッチングをする人たちは、「ものさし鳥」という基準を考えました。私たちの身近にいる鳥を基準にして、それより大きいか小さいかを示します。たとえば、「カラスよりやや大きい鳥」と説明すれば、知られていない鳥でもだいたいの感じを伝えることができます。一般的には、スズメ・ムクドリ・ハト(キジバト)・カラス(ハシブトガラス)などが「ものさし鳥」に使われます。
『三国』では、この「ものさし鳥」の考え方を取り入れました。たとえば、ヒヨドリは、今まで〈すこし大形の小鳥〉と、大きいのだか小さいのだか分からない説明になっていましたが、〈ハトより すこし小形の鳥〉と改めました。ムクドリは〈中形の野鳥〉でしたが、〈スズメより すこし大形の野鳥〉と手を入れました。
ほかの鳥との比較を示さない場合、基本的には、スズメ~ムクドリ大の鳥を「小形」、ハト~カラス大の鳥を「中形」、それ以上を「大形」と、統一的に記述することにしました。ハヤブサは〈小形の猛鳥〉となっていましたが、スズメみたいなのを想像されては困るので、〈中形〉に改めました。カラスとハトの中間ぐらいの大きさです。
さて、バンですが、これはウやコクチョウのような大きな鳥ではありません。カモよりもまだ小ぶりで、まあ黒いハトといった程度の大きさです。それで、基準に従って、語釈には〈中形の水鳥〉と記しておきました。