留学生のAさんが、雑誌に〈あなたの理想の相手を診断します!〉とあるのを見とがめました(その記事は『Hot Pepper』2007.6 p.241)。彼女によると、「診断」の使い方がおかしい、これでは「あなたの恋人を診察します」という意味になるというのです。
思いも寄らない指摘に驚きました。たしかに、『三省堂国語辞典』(旧版)を見ると、「診断」には「診察して病気の状態を判断すること」「欠陥があるかどうかを判断し、必要な処置を決めること」の意味しかないので、冒頭のような例は解釈できません。
気をつけていると、「相性診断」「ネット診断」など、同様の使い方は少なくありません。従来のブランチには収まらないとみて、『三国』の第六版では、「診断」の項目に
〈3 うらない。「相性(アイショウ)―」〉
という意味をつけ加えました。要するに「占い」の言い換えとみたわけです。「運勢診断」などという例もあり、運勢はふつう「診断」できるものではないので、これはどうしても新しい意味だと考えざるをえません。
別の留学生Bさんから、大江健三郎「飼育」の中に「事を運ぶ」とあるのが分からない、と言われたことがあります。
〈僕は〔略〕事を運ぶに際して周到さは持ちつづける専門家のように、眉をひそめて広場を横ぎり子供たちを一瞥もしない。〉(『死者の奢り・飼育』新潮文庫 p.113-114)
『三国』旧版には、「事を運ぶ」は載っていませんでした。もっとも、「運ぶ」には〈〔ことを〕進める。「交渉(コウショウ)を―」〉とあるので、これを見ればいいとも言えます。でも、「事を運ぶ」で熟したことばなので、見出しに立てたいところです。第六版では次のように記述しました。
〈事を運ぶ[句]ものごとを順を追って実行する。「てきぱきと―」〉
辞書は、新語や難解語だけでなく、こういった一見当たり前のことばもすくい取り、きちんと説明しなければなりません。でも、当たり前のことばは、ともすると見過ごしがちです。それだけに、AさんやBさんの指摘は印象深いものでした。
留学生は日本語を学びにくるのですが、彼らから日本語について学ぶことも多くあります。これは日本語研究に限らず、いや、学問に限らず、何に関しても言えることです。