「その他」は、今までの6つの大分類に属さない、その他のすべての項目が収録されています。考えられるすべての項目を用意していますが、究極的には、ユーザーが自分のニーズや問題意識などにより項目を追加したり、英文データを追加したりすることにより、まさに、手作りのデータベースができあがるはずです。
そのすべてについてここに言及することはできませんので、下の表のうち1から5までは今回と次回の2回にわたってやや詳しく解説し、6から14までは次々回にまとめて簡単に説明することとします。
中分類 | 回 | |
1 | 表現のバリエーション | 第37回 |
2 | 反意語 | 第38回 |
3 | パンクチュエーション | 〃 |
4 | ハイフン | 〃 |
5 | 列挙法 | 第39回 |
6 | パラレリズム | 〃 |
7 | 言語 | 〃 |
8 | 用語 | 〃 |
9 | ビジネス関係 | 〃 |
10 | 簡潔表現 | 〃 |
11 | 異種の情 | 〃 |
12 | 対称(対照)表現 | 〃 |
13 | 擬音語・擬態語 | 〃 |
14 | ことわざ | 〃 |
1 表現のバリエーション
英語では、隣接するところでは同じ言葉や表現は避けるのが普通です(表現の変化)。しかし、その反面、一度良い言葉や表現を使ったら、最初から最後まで、徹頭徹尾それを使わなければなりません(表現の統一)。このことは、日本語でも同じことがいえます。ここでは、英語の「表現の変化」という概念をより深く理解するための前提として、全体を英語と日本語に「小分類」し、まず、日本語の「表現の変化」について解説します。ついで、その概念に基づいて、英語の「表現の変化」を「細分類」して、そのバリエーションを考察します。それと同時に、英語の場合には、「表現の統一」についても考えてみます。
ただ、日本語、英語とも、表現に変化を富ませるか否かは、各個人の好みや感性の問題ともいえます。決して、「変化を富ませなければいけない」という文法的な規則があるわけではありません。しかし、筆者は、日本語、英語とも、「表現に変化を富ませる」派であり、それに沿って、例をたくさん収集し、ほぼ完全な分類ができています。
1 日本語の場合
今までに例文は、何十、何百と収集していますが、例文はそれぞれ1つだけにとどめ、必要以外の解説は一切割愛するようにします。
(a) 変化を富ませる
(1) 文学からの引用
どちらも御れんし(連枝)であらせられながらおもしろからぬ間柄でござりましたから、一方がかついえ公の肩をもたれましたにつけ、一方がひでよし公のしりおしをなされたのでもござりましょう
これは谷崎潤一郎の「盲目物語」から引用した例ですが、「味方する」という意味では「肩をもつ」も「尻押しをする」も同じですが、隣接したところでは、同じ表現を避けている例です。
(2) 新聞・雑誌・随筆などからの引用
しかし、伝達手段が変わってきたとはいえ手紙には手紙の使命があり、e-mail には e-mail の役割がある。
「使命」も「役割」も同じ意味ですが、近くのところでは、表現の繰り返しを避けているわけです。
(3) その他からの引用
異動前の集団暴行を訓練と呼び、見せしめを「はなむけ」と称しているかにみえる。
4年ほど前、海上自衛隊の特殊部隊での訓練中の出来事を伝える新聞報道ですが、「呼ぶ」も「称している」も意味的には同じですが、違う表現で表わしている例と考えられます。
筆者も、この3つの例を紹介する際の表現に変化を富ませていますが、お気づきになりましたでしょうか?
2 英語の場合
「変化」については「変化しなければならない」ということはあり得ませんので、一端にあるのは「変化させた方がよい」ということになり、一方、「統一」については、当然、他端にあるのは「統一しなければならない」ということになりましたがって、両極端にあるのは、この2つになります。
これについては、今まで5回、いろいろな国際会議や国内会議に出席した折、「表現のバリエーション、変化と統一」というテーマで講演し、ついでにネイティブのアンケート調査も行い、お墨付きを頂いているので、安心して活用していただいてよいと思っています。
「トミイ方式」のコレクションとしては、品詞を「名詞」、「動詞」、および「その他」に分けて収集・分類していますが、それらすべてについて例文を取り上げると内容が膨大になりますので、それぞれシンボリックな例文だけを取り上げます。
(a) 変化させた方がよい
「名詞」の例
Applications of HDPE range from film products to large, blow-molded oil-storage tanks. One of the largest market areas is in blow-molded bottles for packaging consumer and industrial liquid products. Other major uses include high-quality, injection-molded housewares, water and gas-distribution pipe, and wire insulation.
例文の長さが長く、核心の部分を捉えにくいかもしれませんが、applications と uses です。どちらも、「応用用途」とか「使用用途」などという意味ですが、先に applications を使ってしまったため、次に出て来るところでは uses としているわけです。
このような場合、語源とか、ニュアンスなどはあまり意を介さず、もっぱら、表現にバラエティを富ませることにより、文章のエレガントさを高めようとしているわけです。
この文章は「名詞」の例として挙げてありますが、動詞も変化させています。最初の文では range from … to … というように range を使っているのに対して、後ろの文では、include …, …, and …. としています。
「動詞」の例
When the roof is flat, the material used to form the inner layer is usually referred to as decking. If it is sloped, the inner skin materials is called the roof sheathing.
どちらも、「―と呼ばれる」とか「―という」と意味ですが、隣接しているために、わざわざ表現を変えていると考えられます。また、When the roof is flat, と If it is sloped, という場合、もちろん、全体としては意味が違いますが、When と If もある種のバリエーションといえるかもしれません。
(b) 変化させてもよい
(c) 統一した方がよい
この2つは割愛します。
(d) 統一しなければならない
In this mode, the load and extension reading are stored at the fail point. If a sudden break occurs on the rising portion of the load-extension curve then the load-at-peak mode will provide an accurate measure of the load just prior to rupture. If a sudden failure occurs on the failing portion of the load-elongation curve, then use the Sample Break Module to obtain an accurate load value just prior to break.
この例は、統一すべき言葉を統一していない、悪い例として挙げているものです。
それは、load-extension curve と load-elongation curve です。共に「負荷-伸び曲線」という意味でしょうが、それならば、純粋の技術用語の場合には、extension とするか elongation とするか、どちらかに統一しなければなりません。
If a sudden break occurs と If a sudden failure occurs における break と failure,および just prior to rupture と just prior to break における rupture と break,これらは「(a) 変化を富ませる」か「(b) 変化させてもよい」に属するもので、統一しなければならないものではないと考えられます。
ご自分で、まず、「表現の変化と統一」に関心を持ち、その上で、日頃の翻訳活動を通して例文を集めていくと、立派なデータベースができあがります。