『三省堂国語辞典 第六版』に、「鉄都」という項目が採用されました。〈鉄鋼産業のさかんな都市〉ということです。主要な辞書には載っていませんが、製鉄所の集まる地方ではよく使われることばです。現代語辞書の扱う範囲に入っていると判断しました。
ただ、このことばの読み方がよく分かりません。「てつと」でしょうか、「てっと」でしょうか。「鉄塔」「鉄槌」などからすれば「てっと」のようですが、確証はありません。たまたま『鉄都鞍山の回顧』(1957年)という本が見つかりましたが、奥付にはルビがありませんでした。古い本なので、そもそも、他の部分でも促音を小書きにしていません。
「つ」か、それとも、「っ」か。思い余って、鉄鋼業に関係の深い自治体に電話で尋ねてみました。「分からない」という回答もあった中で、釜石市役所総務課のIさんは、たいへん協力的に応対してくださいました。同僚の方などに尋ねた結果を、折り返しの電話で知らせてくださいました。
まず、総務課の30代から40代の職員に聞いた結果によれば、「てつと」という意見と「てっと」という意見があり、「てつと」がやや優勢ということでした。また、教育委員会の文化財担当で、年配の委員と話をする機会の多い30代の職員に聞いたところ、ふつうは「てつと」と言うとのことでした。
Iさんは、さらに、釜石市立「鉄の歴史館」にも問い合わせてくださいました(私は、不勉強で、その施設を存じ上げませんでした)。館長のお話によれば、この件はよく質問を受けるらしいのですが、「てつと」と発音しているということでした。
このように、Iさんのお答えはじつに行き届いたもので、「てつと」が小さくない勢力を持つことをうかがわせるに十分な内容でした。私は、予想外の懇切なお答えに恐縮して、電話口で何度も頭を下げつつお礼を申し上げました。
釜石市でかりに「てつと」が優勢だとしても、それが無条件で全国共通の語形とはならないことはもちろんです。とはいえ、鉄鋼業の本場に問い合わせて得た結果は、最も尊重すべき情報であることも事実です。「鉄都」のかな見出しは「てつと」としてよいと、私たちは結論しました。その決め手となったのは、釜石市役所総務課のIさんのご回答でした。このことを記して、お礼のしるしとします。