タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(10):Fox Visible Typewriter No.24

筆者:
2017年6月29日
『Popular Mechanics』1911年4月号

『Popular Mechanics』1911年4月号

「Fox Visible Typewriter No.24」は、フォックス(William Ross Fox)率いるフォックス・タイプライター社が、1908年頃に発売したフロントストライク式タイプライターです。1888年にフォックス・マシン社を創業して以来、フォックスは、トリマーや製粉機あるいは自転車などを、ミシガン州グランドラピッズで作り続けてきました。加えて、フォックス・タイプライター社を併設し、アップストライク式タイプライターを製造・販売していたのですが、「Underwood Standard Typewriter No.5」の爆発的ヒットに触発されたのか、フロントストライク式タイプライターの製造も始めたのです。

「Fox Visible Typewriter No.24」は、44キーのフロントストライク式タイプライターで、円弧状2列に配置された44本の活字棒(type arm)と、その上にかぶさる「THE FOX」の金文字が特徴的です。活字棒は、タイプバスケットの手前に26本、奥に18本が配置されています。各キーを押すと、対応する活字棒が立ち上がって、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。これにより、打った文字がその瞬間に見えるのです。44本の活字棒には、それぞれ活字が2つずつ埋め込まれていて、シフト機構により、88種類の文字が印字できます。通常は小文字や数字が印字されるのですが、キーボード最下段の左右端にある「SHIFT KEY」を押すと、タイプバスケット全体が持ち上がって、大文字が印字されるようになるのです。

キー配列は基本的にQWERTY配列で、上の広告のキーボードでは、最上段の数字側は23456789-¢/、シフト側は“#$%_&’()@⅛と並んでいるようです。次の段は、小文字側がqwertyuiop½⅞、大文字側がQWERTYUIOP¼¾と並んでいます。その次の段は、小文字側がasdfghjkl;⅝、大文字側がASDFGHJKL:⅜と並んでいます。最下段は、小文字側がzxcvbnm,.=、大文字側がZXCVBNM?.+です。また、黒赤2色のインクリボンにより2色の印字が可能で、キーボード最上段の左端(「2」の左側)にある赤いキーで印字を赤に、その次の段の左端(「Q」の左側)にある黒いキーで印字を黒に、それぞれ切り替えることができます。キーボード最上段の右端(「/」の右側)が「MARGIN RELEASE」キー、その上方のフロントパネル前面にあるのが「BACK SPACER」キーです。

フォックス・タイプライター社は、「Fox Visible Typewriter No.24」の標準価格を、100ドルに設定していました。500日間で割ると、1日20セント。ただ、日曜や祝日を除いて500日間となると、約20ヶ月が必要となるはずなのですが、上の広告では、そこまでは触れていなかったようです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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