タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(51):Royal RP Electric

筆者:
2019年2月21日
『Life』1951年9月17日号
『Life』1951年9月17日号

「Royal RP Electric」は、ロイヤル・タイプライター社が1950年に発売した電動タイプライターです。これ以前のロイヤル・タイプライター社は、「Royal KMM」や「Royal KMG」などの機械式タイプライターを生産していましたが、「IBM Electric Typewriter」など他社の電動タイプライターに対抗すべく、「Royal RP Electric」を開発し、生産・販売を始めたのです。

「Royal RP Electric」は、電動のフロントストライク式タイプライターです。プラテンの手前に、42本の活字棒(type arm)が扇状に配置されていて、キーを押すと、対応する活字棒が電動で跳ね上がってきます。この結果、プラテンの前面に置かれた紙に、均一な濃さで印字がおこなわれるのです。通常は小文字が印字されますが、「SHIFT」キーを押すとタイプバスケット全体が下がって、大文字が印字されるようになります。本体の向かって左側面には「MANIFOLD」ツマミがあって、印字の濃さを変えることができるようになっています。印字やシフト機構だけでなく、キャリッジ・リターンも、改行も、タブ機構も、バックスペースも、全て電動でおこなわれます。左右端の「RETURN」キーを押すだけで、キャリッジ・リターンと改行が、完全に電動でおこなわれるのです。

上の広告に見える「Royal RP Electric」のキーボードは、いわゆるQWERTY配列です。キーボード最上段は、左端に「BACK SPACE」キーがあって、大文字側に"#$%_&'()*が、小文字側に234567890-が並んでおり、右端に「TABULATOR」キーがあります。左端の「BACK SPACE」のさらに左上に見えるのが「TAB CLEAR」ボタンで、そのすぐ上に電源スイッチがあります。右端の「TABULATOR」のさらに右上に見えるのが「TAB SET」ボタンで、その上にインクリボンの色切替と、リピートスイッチ(ハイフンやアンダーラインを繰り返し印字する)があります。キーボードの次の段は、左端に「RETURN」キーがあって、大文字側にQWERTYUIOP¼が、小文字側にqwertyuiop½が並んでおり、右端にも「RETURN」キーがあります。次の段は、左端に「SHIFT LOCK」キーがあって、大文字側にASDFGHJKL:@が、小文字側にasdfghjkl;¢が並んでおり、右端に「MAR REL」(マージン・リリース)キーがあります。最下段は、左端に「SHIFT」キーがあって、大文字側にZXCVBNM,.?が、小文字側にzxcvbnm,./が並んでいて、右端にも「SHIFT」キーがあります。数字の「1」は、小文字の「l」で代用することが想定されていたようです。

1954年にロイヤル・タイプライター社は、「Royal RP Electric」のデザインを一部変更した「Royal RE Electric」を発売しました。同時に、それまでは灰色に近い配色だった電動タイプライターに、水色のモデルや、黄緑色のモデルや、あるいは下の広告のようなピンク色のモデルを投入しました。タイプライターを、値段や機能だけでなく、色やデザインで選ぶ時代が、始まりつつあったのです。

『Life』1955年9月26日号
『Life』1955年9月26日号

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。