タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(52):Olympia SGE-40 Electric

筆者:
2019年3月7日
『Rotarian』1965年5月号
『Rotarian』1965年5月号

「Olympia SGE-40 Electric」は、ヴィルヘルムスハーフェン(当時、西ドイツ)のオリンピア社が、1962年に発売した電動タイプライターです。オリンピア社では、国内向けのモデルには、キー配列にQWERTZを採用していましたが、上の広告に載っているモデルは、北米(カナダおよびアメリカ)輸出向けのもので、キー配列がQWERTYになっています。「IBM Electric Typewriter」のキー配列を模しているらしく、キーボードの最上段は、小文字側に1234567890-=が、大文字側に!@#$%¢&*()_+が並んでいて、「2」のシフト側に「@」があります。そのさらに上に見える緑色のキーは、タブ機構の「SET」「TAB」「CLEAR」です。

「Olympia SGE-40 Electric」は、フロントストライク式の電動タイプライターです。プラテンの手前には、46本の活字棒が扇状に配置されています。対応するキーを押すと、活字棒が電動で立ち上がってきて、プラテンの前に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられます。キーを押す強さとは無関係に印字の強さが決まるので、均一な濃さで印字がおこなわれるのです。通常は小文字が印字されますが、シフトキーを押すと、タイプバスケット全体が下がって、大文字が印字されるようになります。キーボードの左右端にある緑色の「CR」キーは、キャリッジリターンと改行を同時におこなうもので、この機構も完全に電動です。また、プラテンには、自動給紙・排紙機構も付いていて、この機構も電動なのです。さらに強力なのがタブ機構で、タブを一文字単位で「SET」「CLEAR」できるようになっているのです。このタブ機構を支えているのが、上の広告のタイプバスケットとキーボードの間に見える、櫛歯状の記憶装置です。櫛歯が物理的に飛び出した状態になることで、タブを「SET」した文字位置を記憶するのです。

「Olympia SGE-40 Electric」は、元々は220V~240V電源用に設計されたものでした。西ドイツや周辺諸国では、それで大丈夫だったのですが、北米向けに輸出するにあたり、120Vでも動作するよう電源部に改良がおこなわれています。この結果、「Olympia SGE-40 Electric」の重量は12キログラムという、当時としても、かなり重いタイプライターだったのです。置き場所を考えると、下の広告にあるように「重大な決断」が必要だったのでしょう。

『Nation's Business』1964年10月号
『Nation's Business』1964年10月号

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。