「Lasar Typewriter」は、セントルイスのラザー(Godfrey Henry Lasar)率いるラザー・タイプライター社が、1890年に発売したタイプライターです。ただし、ラザー・タイプライター社は1892年5月に倒産しており、上の広告は「Lasar Typewriter」を引き取ったセントルイス・タイプライター・エクスチェンジによるものです。
「Lasar Typewriter」の特徴は、プラテンの手前に屹立した46本の活字棒(type bar)にあります。活字棒は、それぞれがキーに繋がっていて、キーを押すと、対応する活字棒がプラテンの上面に打ち下ろされます(ダウンストライク式)。プラテンの上面には紙とインクリボンが置かれていて、印字の瞬間には、インクリボンごと活字棒が打ち下ろされるのです。打ち下ろされた活字棒は、バネの力で元の位置に戻ります。すなわち、プラテンの上面で印字がおこなわれるので、オペレータが少し上から覗き込めば、印字された文字が直接見えるのです。
「Lasar Typewriter」のキーボードは、いわゆるQWERTY配列です。上の広告で見る限り、キーボードの最上段には$23456789-?が、その次の段には|QWERTYUIOP:が、その次の段には"ASDFGHJKL';が、最下段には&ZXCVBNM,.%が、それぞれ並んでいます。シフト機構が無いため、46個のキーに46種類の文字しか搭載されていません。小文字は打つことができず、数字の「1」は「I」で、数字の「0」は「O」で、それぞれ代用することが想定されていたようです。
大文字と数字と12種類の記号しか打てない「Lasar Typewriter」は、残念ながら、一般的な書類や手紙には適さないものでした。セントルイス・タイプライター・エクスチェンジは、鉄道モールス電信での「Lasar Typewriter」利用を狙って、雑誌『Railroad Telegrapher』などに広告を掲載したのですが、それもあまりうまくいきませんでした。一方、ラザーは、「Lasar Typewriter」に関する特許を、コロンビア・タイプライター社などに売却し、タイプライター製造から手を引いたようです。なお、下の記事は広告ではなく、雑誌『Illustrated Phonographic World』の連載記事「Some Unsuccessful Typewriters」(いくつかの不成功に終わったタイプライター)からの抜粋です。