ちはやぶる神なび山のもみぢ葉に思ひは懸じうつろふものを
出典
古今・秋下・二五四
訳
(ちはやぶる)神なび山の紅葉に愛着を寄せることはしまい。(すぐに)色変わりするものだからなあ(同じように、すぐ心変わりする、薄情な人に思慕の情を寄せることはしまい)。
注
第四句は「思ひはかけじ」。「思ひを懸く」を強めて、「を」を「は」としている。「ちはやぶる」は「神なび山」の枕詞。
(『三省堂 全訳読解古語辞典』「おもひをかく」)
◆参考情報
8月8日は立秋。今回は、弊社主催創作和歌コンテストの今年度のお題でもある、秋の「もみぢ」を詠み込んだ歌を取り上げました。
ところで、紅葉は、古語では「もみぢ」と表記するのに、なぜ現代語では「もみじ」と書くのでしょうか。
古語の「もみぢ」は、もともと「紅葉する」という意味の動詞「もみづ(紅葉づ)」から出来た名詞です(『全訳読解古語辞典』1182p「もみぢ」)。そのため、ダ行の「ぢ」が使われ「もみぢ」と表記されます。
「もみぢ」から「もみじ」に変化したのは、昭和21年に内閣訓令・告示で「現代かなづかい」が定められたことによります。
「ぢ」と「じ」は、昔は発音が違っていて書き分けられていましたが、だんだんと発音が混同されるようになり、昭和21年の「現代かなづかい」制定により、「ぢ」は「じ」に表記が統一されることになりました(一部例外をのぞく)。このため、歴史的かなづかい「もみぢ」も、現代かなづかいでは「もみじ」と書かれるようになりました。
同様の例には、歴史的かなづかい「みづ(水)」→現代かなづかいで「みず」、「あづま(東)」→「あずま」、「めづらし」→「めずらしい」などの変化があります。
『全訳読解古語辞典〔第四版〕』〈16〉ページ以降にある「歴史的かなづかい一覧」には、このように現代語と古語とでかなづかいが異なるケースの例が挙げられており、表記の迷いやすいものを、現代かなづかいから検索することができます。
また、〈14〉~〈15〉ページの「歴史的かなづかい要覧」には、現代かなづかいと歴史的かなづかいの違いについて、簡単にまとめられています。かな遣いの変遷の原理を知っておくと、古語辞典を引く際に検索がしやすくなります。