古語辞典でみる和歌

第16回 「秋の月…」

2015年9月8日

秋の月光さやけみもみぢ葉の落つる影さへ見えわたるかな

出典

後撰・秋下・四三四・紀貫之(きのつらゆき)

秋の月の光が明るくはっきりしているので、紅葉の散り落ちる影までが、一面に見えているよ。

「光さやけみ」の「さやけ」は、形容詞「さやけし」の語幹。「み」は、原因・理由を表す接尾語。

参考

秋の月光に照らされると散り落ちる紅葉の姿や色がはっきり見えるだけでなく、その影までが見えていると詠むことによって、月光の明るさを表現している。そこにこの歌の特徴がある。

(『三省堂 全訳読解古語辞典』「あきのつき…」)


◆参考情報
9月27日は十五夜。今回は、秋の名物、月と紅葉を同時に詠んでいる歌を取り上げました。

ところで、お月見の風習はいつ頃からあるのでしょうか。『三省堂 詳説古語辞典』で「月」を引くと、「月の宴」という子項目に「月見の宴。月を見ながら催す宴。陰暦八月十五日の夜に行う。(季-秋)」とあり、以下のようなコラムでさらに詳しい解説が見られます。

[古典の世界] 文学作品の中の「月の宴」
宮廷での「月の宴」は、延喜(えんぎ)(901~923)のころから催されたという記録がある。村上天皇の康保(こうほう)三年の八月十五日に行われた「月の宴」は、人目をおどろかすほど雄大かつはなやかであったことが、『栄花物語』の「月の宴」の巻に描かれている。清涼殿の庭前に前栽(せんざい)を植え込み、宮廷の装飾を担当した「絵所(ゑどころ)」が大井川の景色などを描いて背景とし、宮中の調度品などを担当した「造物所(つくもどころ)」が洲浜(すはま)に松竹などを彫りつけたりして飾り立てた、みごとな舞台づくりであった。そして、殿上人(てんじょうびと)を左右に分けて、にぎやかに、前栽合わせや詠歌を競った。『源氏物語』の「須磨」の巻に、「月のいとはなやかにさし出でたるに、今宵は十五夜なりけり、と思し出でて、殿上の御遊び恋しく…」とあるのは、この月の宴を指している。
 王朝時代には、大小公私の月の宴がしきりに催され、そういう機会に生まれた和歌や物語が、月の文学の一系列をかたちづくっている。

筆者プロフィール

古語辞典編集部

編集部から

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