地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第213回 日高貢一郎さん:宮城県石巻市の『おらほのラジオ体操』

2012年8月4日

小・中・高校はいま夏休み。毎朝、早起きして近くの広場などに集まり、蝉の鳴き声を伴奏にしながら、「ラジオ体操」に取り組んでいる子供たちからお年寄りまで…。大勢の人たちの元気な姿が、全国で見られます。

方言で号令をかける、ちょっと変わった「ラジオ体操」が東北地方にあります。

その名も『おらほのラジオ体操』といい、宮城県石巻市で、たくさんの人たちに参加を呼びかけています。大きな声で号令をかけているのは、地元出身のタレント本間秋彦さん。

インターネットでYou Tubeにアクセスすると、その体操の模様を見ることができます。方言の字幕入りと字幕なしを合わせると、すでに18万件のアクセスを記録しています。(「おらほ」については、第13回第16回第210回を参照)

【動画】 『おらほのラジオ体操』 (字幕入り版)  再生ボタンを押すと開始
//youtu.be/kTaAtD88O34

そのねらいと意義については、次のように説明されています。

■プロジェクト概要                     

誰もが慣れ親しんだ、気軽に参加できる日本独自の習慣であるラジオ体操を「お国言葉」でおこなうことは、地域住民の連帯感を高め、コミュニティーづくりのきっかけとなることでしょう。人と人をつなぐ交流のきっかけに広く愛される活動になることを願っています。

[おらほのラジオ体操実行委員会]

小さい子供たちから、少年・少女、青年男女、おじさん・おばさん、おじいちゃん・おばあちゃんまで、老若男女が、広場で、少年サッカーのグラウンドで、避難所の前で、駐車場で、稲の実った田んぼの脇で、港のそばで、…、方言色いっぱいの掛け声に合わせて、みんな元気に笑顔でラジオ体操を繰り広げています。

そして画面の最後には「大好きな東北の、その方言のラジオ体操で、日本全国でラジオ体操しませんか。いつも東北が感じられるように。東北の方々の元気な姿をともに感じられるように。私たちは、きっと一緒にラジオ体操ができる。きっと日本の笑顔が一緒になる」という、制作者の思いと願いが込められたメッセージが表示されます。

震災からちょうど半年後、平成23年9月10日11日に石巻市で撮影されたということです。東京にあるヘルスコミュニケーション会社の企画と呼びかけに、地元のコミュニティーFMラジオ局や新聞社などが応えて制作されました。

【写真】 『おらほのラジオ体操』のCD(左端が、本間秋彦さん)
【写真】 『おらほのラジオ体操』のCD(左端が、本間秋彦さん)(クリックで拡大)

この「おらほのラジオ体操」のCDもあり、ジャケットは動画に登場する人たちで、都合20種ある由。売り上げの一部は、東日本大震災の復興のための義援金として寄付されているとのこと。平成24年7月現在、すでに5000枚以上販売され、地元の市や町に寄付する額も100万円を超えるということです。

また、福祉施設などから、「大型の画面やスクリーンに映して利用したいので…」と、DVDを望む声があり、現在、準備中だということです。

この体操の画面を見ていると、お馴染みの「ラジオ体操」の号令が思いもかけず方言で流れてくるという意外さ・ユニークさがまず印象的ですが、日頃その方言を使っている人たちにとっては名前の通り「おらほの…」〔=自分たちの〕体操だという実感が強くわいてくることでしょう。また、戸外に出て仲間といっしょに同じ動作をすることで、連帯感・一体感も強く感じられるでしょうから、東日本大震災の被災者として落ち込みがちな人たちを鼓舞し、心身の健康の維持・増進を促す効果も大きいと思われます。

他地域の人たちにとっても、方言のユニークさ・面白さが大ウケで、好評を博していることは、アクセス数、CDの販売枚数の多さからも容易にうかがえます。

「方言」の持つパワーと特性がうまく活かされ、発揮された活用例だと思われます。

 * 

《参考》
本間秋彦さんへのインタビューが、「宮城県復興応援ブログ・ココロプレス」に載っています。//kokoropress.blogspot.jp/2011/12/blog-post_28.html

その他、同じ東北地方では、次の例があります。
①津軽三味線の伴奏による「ラジオ体操第1 津軽弁」、②「ラジオ体操第一 山形弁」
また、同様な「ラジオ体操」が、名古屋や、南の鹿児島や沖縄にもあります。
③「ラジオ体操第一 名古屋弁」、④「ラジオ体操第一 鹿児島弁 」、
⑤「奄美島口ラジオ体操」、沖縄県の⑥「うちなぁぐちラジオ体操」、
⑦「ラジオ体操 宮古島方言バージョン」、⑧石垣島新川地区のスマムニ(島ことば)による「新川スマムニラジオ体操」、⑨「八重山方言ラジオ体操」
など、各地でいろいろなものが作られています。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。