一般に数えられる名詞(可算名詞)は -s によって対象が複数存在することが示される。-s は2つ以上あるものに付ければよいと思えば簡単に使いこなせるように感じられるが,語によっては予想に反する場合も出てくる。多くの英和辞典では[通例-s]や[しばしば-s]といった表記の有無で,予期せぬ誤用を防ぐ工夫がなされている。ただし[しばしば-s]は付ける語によっては頻度上単数複数のどちらでもよいのではないかと誤解される恐れがある。ウィズダム英和辞典ではこうした誤解が生まれぬよう語に応じた注記が付されている。ここでは facility の複数形を例として紹介したい。
facility は「施設」「設備」「機能」「才能」といった意味を表す語である。三省堂コーパスを使い facility の左1語目に出現する語を機能語をとばして見てみると,sports, storage, medical, research, leisure, productionといった語が上位に挙がってくる。いずれも「施設」「設備」の意味に該当する表現である。ただしそれぞれの表現で単複の使用頻度を調べると,単数形の使用が極めて少ない語があることに気づく。次の表は各語の単複の頻度をまとめたものである。
単数形の頻度 | 複数形の頻度 | |
---|---|---|
sports ~ | 1 | 38 |
storage ~ | 16 | 20 |
medical ~ | 12 | 13 |
research ~ | 13 | 11 |
leisure ~ | 0 | 19 |
production ~ | 6 | 9 |
お判りのように,sports ~, leisure ~の単数形は他の表現よりも明らかに少ない。この2つの表現は全体で一つであっても個々の内部施設が意識されることで複数扱いになることが容易に想像できる。Sports facilities include a hard tennis court, heated swimming-pool, . . . といった例から判るように,内部にはテニスコートやプールなどの施設があり,この複合性が複数形を牽引しているわけである。この facility の特徴を[しばしば複数形で]の表記で全体をまとめてしまうのではなく,次に示すように「複合的なものは通例-ties」という注記を設け,用例ごとに単複の使用頻度に違いがあることを学習者に知らせる工夫をしている。些細なことかもしれないが,こうした数に関する工夫が『ウィズダム英和辞典』の中には散りばめられている。
ちなみに facility の4番目の意味に「トイレ」を載せているが,4はつねに複数形となる。4の場合は複数形にすることで,対象物がぼかされ婉曲性が生まれている。facilities は日本語でいう「お手洗い」に相当する語といえる。
最後に,[しばしば~s]の表記について一言付け加えておきたい。[しばしば-s]は単数形が普通だと思いがちな語に付けることは至極有益である。その1例としてpoutをご覧いただきたい。