英和辞典には様々なコラムが存在する。それぞれ特色を持っているが,『ウィズダム英和辞典』第2版に登場した「コーパスの窓」はコーパスを利用することで得られた発見を中心にしたコラムである。今回はコーパスの活用が「コーパスの窓」にどう生かされているのか,前置詞のfromの用法に注目してみてゆくことにする。
前置詞 from の典型的用法の一つは,場所を示す名詞と共起するものである。
My sister just called from Tokyo this morning.
Something has been stolen from my room.
こうした出発点・起点を示すfromは場所を示す名詞と共に使われることが多く,日本人英語学習者にとっても「~から」という日本語と結び付けて理解しやすい。
ところが,この from が名詞ではなく副詞や前置詞と共起する場合がある。三省堂コーパスからは以下のような例が見つかった。
Remove the screws protruding up into the faucet from below.
Light was pouring into the shaft from above.
She jumped out from behind the sofa and screamed.
こうしたfromの使い方は日本人にとっては難しいものである。意味を理解する場合にはさほど問題がなくても,会話や作文といった英語による「発信」活動の際にはなかなか出てこない。「~から」という意味だから,場所を示す副詞や前置詞なら何でも使えそうだが,コーパスを見ればそうではないことがわかる。場所を示す副詞・前置詞のうち,典型的に用いられるのはbehind, below, above などで at, on, in はほとんど用いられない。こうした情報を盛り込んだものが以下の「コーパスの窓」である。
この説明と例文を読めば,どのような副詞・前置詞と一緒に使えばいいのか,またどういった句と用いるのが自然かといったことがわかり,非母語話者である日本人がこの用法の from を会話や作文に使う際の手助けとなる。ちなみにコーパスを見ると,この from は come, go, walk, run, move, jump などの動作を示す動詞とよく共起すること,特にbehindが後続する場合は come out, pop up, jump out, step out などの句動詞と共に典型的に用いられることが伺える。
英和辞典には意味を理解する「受信」活動だけではなく,意味を伝える「発信」活動にも役立つ情報がたくさん盛り込まれているが,コーパスを利用すれば「どう発信すればよいのか」の手がかりがつかめる。そうした情報を利用すれば,非母語話者の日本人でも,より自然な,英語らしい英語を発信することが可能となる。「コーパスの窓」にはこうした母語話者の英語使用を反映した多くの「発信」活動のための情報が盛り込まれている。ぜひ「コーパスの窓」を開けてご覧頂きたい。