WISDOM in Depth

#24 コーパスで検証する (3)

筆者:
2008年4月1日

−語義と訳語:putの場合−

英和辞典の利用目的の多くを占めるのが語義・訳語の確認であろう。ところが,特別な専門用語を除いて,複数の言語間で対応する語や語義が完全に一致することはまれである。たとえば,pneumoniaと「肺炎」,influenzaと「インフルエンザ」といった医学用語では,英語と日本語が全く同一語義でずれるところがないが,comeやgoといった例では,それぞれ「来る」や「行く」は訳語のひとつでしかなく,英語と日本語における物理的意味や文化的意味の分布に大きな違いが見られる。

このことは,それぞれの語を同規模の英和辞典と国語辞典を引き比べてみれば一目瞭然である。外国語学習の際にやっかいなのは,このように外国語と母語で対応する単語の意味用法にかなりの差が見られるものがあることである。特に,外国語に対応する母語の意味・用法や訳語が多岐にわたる場合は,早期から外国語の意味分布を概念化して,場面に応じた母語で表現できるようにしておくことが必要である。

たとえば,putの場合,「置く」というのはあくまで基本的概念であって,「載せる」,「入れる」,「付ける」,「しまう」など,「置く」の守備範囲をはるかに超える訳語を文脈に応じて使い分ける必要がある。putを使いこなすには,そのような文脈をより多く経験するしかないが,『ウィズダム英和辞典』では,語義の一部として与える訳語だけではなく,語源,コーパス頻度ランク,用例,表現欄などによって,全体像をつかみやすくする工夫を凝らしている。

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筆者プロフィール

井上 永幸 ( いのうえ・ながゆき)

徳島大学総合科学部教授。
専門は英語学(現代英語の文法と語法),コーパス言語学,辞書学。
編纂に携わった辞書は『ジーニアス英和辞典初版』(大修館書店),『英語基本形容詞・副詞辞典』(研究社出版),『ニューセンチュリー和英辞典2版』(三省堂),『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)など多数。

編集部から

辞書の凝縮された記述の裏には,膨大な知見が隠れています。紙幅の関係で辞書には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,『ウィズダム英和辞典 第2版』の編者・編集委員の先生方にお書きいただきます(※2018年7月現在、ウィズダム英和辞典は第3版が刊行されております)。