−語義と訳語:putの場合−
英和辞典の利用目的の多くを占めるのが語義・訳語の確認であろう。ところが,特別な専門用語を除いて,複数の言語間で対応する語や語義が完全に一致することはまれである。たとえば,pneumoniaと「肺炎」,influenzaと「インフルエンザ」といった医学用語では,英語と日本語が全く同一語義でずれるところがないが,comeやgoといった例では,それぞれ「来る」や「行く」は訳語のひとつでしかなく,英語と日本語における物理的意味や文化的意味の分布に大きな違いが見られる。
このことは,それぞれの語を同規模の英和辞典と国語辞典を引き比べてみれば一目瞭然である。外国語学習の際にやっかいなのは,このように外国語と母語で対応する単語の意味用法にかなりの差が見られるものがあることである。特に,外国語に対応する母語の意味・用法や訳語が多岐にわたる場合は,早期から外国語の意味分布を概念化して,場面に応じた母語で表現できるようにしておくことが必要である。
たとえば,putの場合,「置く」というのはあくまで基本的概念であって,「載せる」,「入れる」,「付ける」,「しまう」など,「置く」の守備範囲をはるかに超える訳語を文脈に応じて使い分ける必要がある。putを使いこなすには,そのような文脈をより多く経験するしかないが,『ウィズダム英和辞典』では,語義の一部として与える訳語だけではなく,語源,コーパス頻度ランク,用例,表現欄などによって,全体像をつかみやすくする工夫を凝らしている。