WISDOM in Depth

#32 コーパスで検証する (8)

筆者:
2008年7月4日

−連語情報とスペースとの戦い−

辞書編集がスペースとの戦いであることは,WISDOM in Depth: #27でもふれた。スペースの制約を受けるのは,辞書の主役のひとつである用例も例外ではない。英語学習者が英語を発信しようとする場合,名詞であればどのような形容詞や動詞と用いられるのか,形容詞であればどのような名詞や副詞と用いられるのか,動詞であればどのような名詞や副詞と用いられるのかといった情報は欠かせないが,そういった情報はできれば用例として与えられるのが理想的である。しかしながら,約2,000ページという限られたスペースでは,十分な用例を示すことができない場合も少なくない。

『ウィズダム英和辞典』では,たとえば,動詞や形容詞では語義とともに,主語や目的語の位置にどのような名詞が現れるのかを示すため「〈人が〉」や「〈人〉を」といった選択制限表示を与えていることはもちろん,どのような副詞としばしば用いられるかといった情報を注記やコラムで示している。下のtalkの例を見られたい。

talk.png

連語する副詞の使用域等に差がある場合は,記述が複雑になりがちになるので,表現欄としてコラム化してある。特に高頻度のものは,太字の斜体にしてある。

go11.png

また,高頻度の用法については,「コーパスの窓」としてコラム化し,十分なヴァリエーションを示して学習の効率化を図った。

speaking.png

紙の辞書はスペースの制限があるが,第2版の刊行と同時に第2版利用者に無料で公開している『デュアル・ディクショナリー』では,事実上スペースの制限はないに等しいので,紙製版に比べて3,000用例を増加してある。今後ますます進化してゆく『デュアル・ディクショナリー』にもご期待いただければ幸いである。

筆者プロフィール

井上 永幸 ( いのうえ・ながゆき)

徳島大学総合科学部教授。
専門は英語学(現代英語の文法と語法),コーパス言語学,辞書学。
編纂に携わった辞書は『ジーニアス英和辞典初版』(大修館書店),『英語基本形容詞・副詞辞典』(研究社出版),『ニューセンチュリー和英辞典2版』(三省堂),『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)など多数。

編集部から

辞書の凝縮された記述の裏には,膨大な知見が隠れています。紙幅の関係で辞書には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,『ウィズダム英和辞典 第2版』の編者・編集委員の先生方にお書きいただきます(※2018年7月現在、ウィズダム英和辞典は第3版が刊行されております)。