歴史を彩った洋楽ナンバー ~キーワードから読み解く歌物語~

第16回 (I Can’t Get No) Satisfaction(1965, 全米, 全英No.1)/ ローリング・ストーンズ(1962-)

2012年1月25日
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●歌詞はこちら
//lyrics.wikia.com/The_Rolling_Stones:Satisfaction

曲のエピソード

イギリスのロック・アーティストの多くはアメリカのブルース/R&Bから多かれ少なかれ影響を受けている。ローリング・ストーンズもその例外ではなく、バンド名からして、著名なブルースマンのマディ・ウォーターズ(Muddy Waters/1915-1983)の曲「Rollin’ Stone」(1950)から拝借したものだ。アメリカのR&Bナンバーも複数カヴァーしている。

歌詞はすべてリード・シンガーのミック・ジャガーが綴り、メロディ部分などはギター担当のキース・リチャーズ作。……ということになっているが、一説によると、この曲をカヴァーしたオーティス・レディング(Otis Redding/1941-67/彼のカヴァーは1966年に全米No.31を記録)が真の作者だとも言われている。実際、ストーンズはオーティスの信奉者だった。あるいは、両者の間でこの曲を巡って何かしらの密約があったのかも……。が、未だに真相は明らかではない。

ミックは、ストーンズがアメリカにツアーに行った際に、同地で見た商品の誇大広告に憤慨したことから、この歌詞を思いついたと語っている。タイトルの「(俺はちっとも)満足できない」は、アメリカの資本主義が生んだ空々しい誇大広告への不満をブチまけているもの。この曲で彼らは、初めて全米チャートを制覇した。ここで注目したいのは、“satisfaction”がイギリス英語の発音[sæ̀tɪsfǽkʃ(ə)n]ではなく、アメリカ英語のそれ[sæ̀ţɪsfǽkʃ(ə)n]になっている点。ひょっとしたら、最初からこの曲で本格的なアメリカ進出を狙っていたのかも知れない。専門的で恐縮だが、アメリカ発音の[-t-](逆さ^つき)は[-d-]のように聞こえる点にご注意。

曲の要旨

どんなにジタバタしてみても、俺のイライラは収まらない。世の中に対して不満だらけだ。TVを見てみても、嘘っぱちな誇大広告が目に付く。「この洗剤を使えばあなたのシャツはこんなにも真っ白に!」だと? フザケるな。ああ、ムシャクシャする。ツアー先ではグルーピーの女たちがわんさか押し寄せてきて、また会いに来てよ、と俺に誘いかける。これまた煩わしいったらありゃしない。これでも何とかしようとあがいてるのに。今にも不満が爆発しそうだ!

1965年の主な出来事

アメリカ: アメリカ軍がヴェトナム戦争で北爆を強化。
  アフリカン・アメリカン指導者のマルコムXが演説中に銃殺される。
日本: いわゆる日韓基本条約が締結される。
世界: インドネシアでクーデターが失敗に終わる。

1965年の主なヒット曲

My Girl/テンプテーションズ
Help Me, Rhonda/ビーチ・ボーイズ
California Dreamin’/ママス&パパス
Yesterday/ビートルズ
Stop! In The Name of Love/シュープリームス

(I Can’t Get No) Satisfactionのキーワード&フレーズ

(a) I can’t get no satisfaction
(b) fire one’s imagination
(c) be on a losin’ streak

これはあちらこちらに書いたエピソードだが、余りに面白いのでまたここで書かせていただく。今から15年ぐらい前、とある大学の講義でこの曲を教材として採り上げた教授がいた。その際、学生に向かって、その教授は真面目くさった顔で曲のタイトルをこう説明したという。

「この曲は、『俺は満足できないことはない』と歌っています」

教授、あえなく玉砕(苦笑)。タイトルにもなっている(a)の「否定形+no(または他の否定語)」は、否定の否定ではなく、否定の強調である。もちろん、(a)を正しい英文に書き換えると、

I can’t get any satisfaction.

となるのだが、そこを二重否定を用いて否定の強調としたところに、ストーンズのR&Bへの傾斜を見て取れる。何故なら、ブルースはもちろんのこと、R&B/ソウル・ミュージック、果てはラップ・ミュージックに至るまで、二重否定による否定の強調は、歌詞にかなりの頻度で登場するからだ。“(There) ain’t no ~(=there is no ~)”というフレーズがブラック・ミュージックの歌詞に多いのはそのため。当然ながら、ミックもそれを多分に意識してこの歌詞を綴ったに相違ない。また、そうすることで、そこのフレーズが砕けた口調になる。日本語にするなら「俺はこれっぽっちも満足できねえ!」だろうか。試しにここを♪I can’t get any satisfaction. . . に変えて歌ってみると、どうにもこうにもまどろっこしくなってしまう。やっぱりここは“no”でなくっちゃ。

(b)は、字面通りに訳せば「~の想像力を燃え上がらせる」。ちなみに、“imagination”を用いたイディオムには、以下のようなものがある。

(1) catch one’s imagination(~の興味をそそる、~の心を捉える)
 (2) in one’s imagination(~の想像では、~の頭の中で)

(b)は(1)のニュアンスに近い。この曲では、「ラジオから流れてくる無益な情報が俺の想像力を掻き立てようとしている」というフレーズで使われている。これも曲全体のテーマである「誇大広告への反発」を表現した箇所だろう。ここで肝心なのは、その情報の発信源がTVではなくラジオであること。映像を伴わない音だけのラジオは、その分、リスナーの想像力を膨らませてくれる。もしここが“radio”ではなく“TV”(ついでながら、イギリスでは口語でTVを”telly”という)だったとしたら、(b)のフレーズは成り立たない。その「無益な情報」の中身には触れられていないが、恐らくそれもラジオ・コマーシャルの類なんじゃないかと思う。今は消費者も賢くなり、また、誇大広告を取り締まる機構もあるため、昔ほどアヤシイ誇大広告を見聞きすることはなくなった。が、筆者はこの曲を聴く度に、今でも亡母の次の言葉を思い出してしまうのだ。「洗剤の宣伝で真っ白な靴下をこれ見よがしに持って、『ほら、こんなに真っ白!』って言うけど、あんなの嘘。絶対にあれは新品の靴下を使ってると思う」。ああ、母にこの曲を聴かせてあげたかった。

(c)のイディオムを、筆者は遥か昔にこの曲で知った。辞書の“streak”の項目にもしっかり載っている。

be on a losing streak(負け続ける)

この反意語として、

be on a winning streak(勝ち続ける)

と共に載っており、他にも、

have a streak of good luck(しばし幸運が続く)
have a streak of bad luck(しばし不運が続く)

というイディオムもある。“streak”(名詞)には「短期間、(時間の)連続」という意味があり、上記のイディオムはすべてそれを踏まえてのもの。

この曲ではグルーピーの女の子が主人公の男性(=ミック)に向かって言い放つセリフに登場するが、「来週また会いに来てよね」に続く言葉になっている。直訳すれば「だって、アタシ、負け続けているんだもの」となるが、それだとやや意味不明。恐らく彼女が言いたいのは、「アタシ、ここんとこツイてないんだもの」ということだろう。「ツキに見放されてる」でもいい。もっと大胆に意訳して、「このところ面白いことなんてちっともないし」なんていうのはどうだろう? 彼女が憧れのロック・スターに対して、ちょいとスネてみせているそのセリフから、身体をくねらせつつ口をとがらせている姿が思い浮かぶ。そして、ウンザリするミックの姿も(苦笑)。

ストーンズのこの有名曲は、1965年当時、彼らのアルバム『OUT OF OUR HEADS』のアメリカ盤のみに収録された(LPでいうとB面の1曲目)。そして何故だか同アルバムのイギリス盤には収録されなかったのだ。ちなみに、アメリカ盤は全米アルバム・チャートでNo.1、イギリス盤は全英アルバム・チャートでNo.2を記録。同じアルバムがアメリカとイギリスでは収録曲が違っていたり、曲順が違っていたりすることはたまにある。時には、ジャケットのデザインが異なることも……。イギリスでは、すでにシングル盤が売れているのに、アルバムに同じ曲を収録するのをよしとしなかった、と言われている。他にももっと違う理由がありそうだが、今さら詮索したいとは思わない。ただちょっと、アメリカ盤に誇大広告の匂いがするだけで。

筆者プロフィール

泉山 真奈美 ( いずみやま・まなみ)

1963年青森県生まれ。幼少の頃からFEN(現AFN)を聴いて育つ。鶴見大学英文科在籍中に音楽ライター/訳詞家/翻訳家としてデビュー。洋楽ナンバーの訳詞及び聞き取り、音楽雑誌や語学雑誌への寄稿、TV番組の字幕、映画の字幕監修、絵本の翻訳、CDの解説の傍ら、翻訳学校フェロー・アカデミーの通信講座(マスターコース「訳詞・音楽記事の翻訳」)、通学講座(「リリック英文法」)の講師を務める。著書に『アフリカン・アメリカン スラング辞典〈改訂版〉』、『エボニクスの英語』(共に研究社)、『泉山真奈美の訳詞教室』(DHC出版)、『DROP THE BOMB!!』(ロッキング・オン)など。『ロック・クラシック入門』、『ブラック・ミュージック入門』(共に河出書房新社)にも寄稿。マーヴィン・ゲイの紙ジャケット仕様CD全作品、ジャクソン・ファイヴ及びマイケル・ジャクソンのモータウン所属時の紙ジャケット仕様CD全作品の歌詞の聞き取りと訳詞、英文ライナーノーツの翻訳、書き下ろしライナーノーツを担当。近作はマーヴィン・ゲイ『ホワッツ・ゴーイン・オン 40周年記念盤』での英文ライナーノーツ翻訳、未発表曲の聞き取りと訳詞及び書き下ろしライナーノーツ。

編集部から

ポピュラー・ミュージック史に残る名曲や、特に日本で人気の高い洋楽ナンバーを毎回1曲ずつ採り上げ、時代背景を探る意味でその曲がヒットした年の主な出来事、その曲以外のヒット曲もあわせて紹介します。アーティスト名は原則的に音楽業界で流通している表記を採りました。煩雑さを避けるためもあって、「ザ・~」も割愛しました。アーティスト名の直後にあるカッコ内には、生没年や活動期間などを示しました。全米もしくは全英チャートでの最高順位、その曲がヒットした年(レコーディングされた年と異なることがあります)も添えました。

曲の誕生には様々なエピソードが潜んでいるものです。それを細かく拾い上げてみました。また、歌詞の要旨もその都度まとめましたので、ご参考になさって下さい。