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曲のエピソード
勤めのかたわら、生まれ故郷アラバマのライヴハウスでローカル・バンドを従えて歌っていたパーシー・スレッジにとって、プロのシンガーとしてのデビュー曲。原題を直訳した「男が女を愛する時」は、今なお使われている。
先にメロディが出来上がり、後に綴られた歌詞は、パーシー・スレッジが彼の実体験をソングライターたちに伝え、それが反映されたもの。当時、彼が交際していた女性がモデルを夢見てカリフォルニアに旅立ってしまい、彼は捨てられた恰好となった。曲が出来上がった当初のタイトルは「Why Did You Leave Me Baby」(どうして俺を捨てたんだよ、ベイビー)だったという。パーシーが「音痴」だったため、曲が出来上がってから本番のレコーディングが行われるまでに時間を要したらしいが、そのヘタウマの唱法が逆にソウルフルなヴォーカルを引き出している。
シングルがリリースされた1966年当時、アメリカのR&Bチャートでは4週間、全米チャートでは2週間にわたってNo.1の座をキープした。イギリスでは、1987年にLevi’sのCMソングに起用され、約20年の歳月を経て全英チャートでNo.2を達成。なお、R&Bに深く傾倒しているアメリカのシンガー、マイケル・ボルトン(Michael Bolton, 1954-)が1991年にこの曲をカヴァーし、オリジナル同様、全米チャートでNo.1を獲得した。
曲の要旨
男がひとりの女に夢中になると、何もかもかなぐり捨てたくなってしまうもの。もし仮に相手がひどい女でも、恋に夢中になっている男はそれに気付かない。恋は盲目を地で行くように、男は我が身を捨てて愛する女に尽くし、全てをなげうつ覚悟でいる。彼には彼女以外の女は目に入らない。たとえ彼女にもてあそばれていようとも…。
1966年の主な出来事
アメリカ: | NOW(National Organization for Woman/全米女性機構)が結成される。 |
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日本: | ビートルズが来日し、武道館でコンサートを行う。 |
世界: | 中国で文化大革命(通称「文革」)が始まる。 |
1966年の主なヒット曲
The Sound of Silence/サイモン&ガーファンクル
Good Lovin’/ヤング・ラスカルズ
Monday, Monday/ママス&パパス
Paperback Writer/ビートルズ
Strangers In The Night/フランク・シナトラ
When A Man Loves A Womanのキーワード&フレーズ
(a) When a man loves a woman
(b) trade the world for ~
(c) the last
1960年代のR&B/ソウル・ミュージックのヒット曲の中でもかなり有名。日本でも人気が高く、パーシー・スレッジと言えばこの曲、と記憶している人が多い。また、マイケル・ボルトンのカヴァーで知った、という人も少なくないだろう。筆者が教えている翻訳学校の講座でも、この曲をリクエストした生徒さんが何名かいた(しかも全員が男性!)。「男が女を愛する時」、男性はどんな行動をとるのか、という点に興味があったものと思われる。
曲の中で何度となくくり返されるタイトル部分の(a)は、“man”と“woman”に不定冠詞の“a”が付いている点が肝心。仮にそこが定冠詞の“the”だと、特定の男女を指すことになってしまう。ここはどうしても不定冠詞である必要がある。何故か?
曲の主人公は、あくまでも第三者の男性を装って歌い進めていく。が、じつは(a)の“a man”とは、彼自身なのである。曲の中盤~後半で一人称の“I”で歌われていたり、それまで“a woman”や“she”だった相手を“you”と二人称で表していたりすることから、そのことがハッキリする。歌詞の“a man”と“he”を“I”に、“his”を“my”に置き換えてみれば、これはパーシーの心情を反映させた内容であることに思い至る。「男が女を愛すると、男はこんな風になってしまうものだ」と一般論を展開しつつ、実際には彼自身が「そんな風に」なってしまっているのだった。
(b)の“the world”は“everything”と同義。“trade A for B”は、「AとBを交換する」、即ち「物々交換する」という意味のイディオム。「Bを手に入れるためにAを手放す」でもいい。ここでは、「彼が見つけたいいもの(=愛する女)」を自分のものにするためなら、「僕の全てを差し出しても(=失っても)構わない」と歌っている。“(the) world”はラヴ・ソングで“everything”の代わりに頻繁に用いられ、以下のようなフレーズが多く存在する。
You are my world.
She means the world to me.
「君は僕の全て」、「彼女は僕にとってかけがえのない存在」という意味。ここを「世界」と解釈してしまうと、原意とのズレが生ずる。なお、辞書で調べてみると“world”には、口語として「自分にとってなくてはならないもの、とてつもなく大切なもの」などという意味、とある。が、やはり洋楽ナンバーでは“everything”の代わりとして用いられる場合が多い。
間違えやすいのが(c)で、字面だけを見れば「最後の」と思いがちだが、辞書で“last”の項目を引いてみると、“the + last”は「最も~しそうにない、一番ふさわしくない」というちょっとビックリするような意味が載っている。筆者はこれを高校時代に英語の授業で習った記憶があるのだが、その際、先生が例文として挙げて下さったのが以下である。
You are the last person I want to see.(あなたは私にとって一番会いたくない人です)
(c)だけで否定の意味合いを含んでいるので、例文では“I don’t want to see.”とはならない。また、“the last ~”には、「究極の、最終的な、最上の」の他、それとは相反する「最下位の、最低の」という意味もあるので、同じ表現が歌詞に出てきた場合、それらのどの意味で用いられているのかを前後のフレーズを手がかりにして判断しなければならない。
曲の中では、「仮に彼女が彼をもてあそんでいるとしても、彼はそのことに最も気付きそうにない」と歌われている。ここを解りやすく意訳すると、「彼以外の誰もが、彼女が彼をもてあそんでいることに気付いても、彼自身は最後までそのことに絶対に気付かない」となるだろう。ここのフレーズを耳にする度に、主人公の男性が恋する道化師に思えてならない。何だかもう、切ないのだ。当時、この曲が全米チャートで栄えあるNo.1の座を射止めたのは、身に覚えのある男性が多くいたからではないだろうか。その一方では、この曲を聴きながら優越感に浸った多くの女性の支持を集めた、とも考えられる。
もし仮にこの曲のタイトルが当初の予定通り「Why Did You Leave Me Baby」だったとしたら、ここまで大ヒットしただろうか? そしてそのタイトルだったなら、どういう邦題が付けられたんだろう? 「捨てられた男の恨み節」……ううん……これでは演歌である。曲であれ書籍であれ、タイトルのインパクトの強さがヒットに結びつくことがある。この曲について言えば、原題、邦題ともに、タイトルの妙が、大ヒットに至った最たる要因のひとつだろう。