「メタボリック症候群」なる用語が世間に広まったのは、2006年5月のことです。厚生労働省の「平成16年 国民健康・栄養調査」で、「中高年男性の半数がメタボリックシンドロームまたはその予備軍」と報告され、メディアでも大々的に報道されました。
このことばは、『三省堂国語辞典 第六版』にも収録し、次のように説明しています。
〈内臓脂肪(シボウ)型の肥満にくわえ、脂肪異常症・高血圧・高血糖のうち、二つ以上が重なった状態。内臓脂肪症候群。メタボリック シンドローム。メタボ。〉
この、最後の〈……メタボ。〉に注目してください。この略語を記すまでには、少々悩みました。今でこそ、「メタボ」という省略形はふつうに使われていますが、『三国 第六版』の出版直前には、まだ、これが一般化するかどうか、判断がむずかしい状況でした。
「メタボリック」を「メタボ」と略す例そのものは、厚労省の報告の後、比較的早くから現れています。たとえば、次のような具合です。
〈ところで、このメタボ症候群に注目が集まるきっかけを作ったのは、先進国の中では“肥満小国”である日本の研究であった。〉(『週刊文春』2006.7.6 p.49)
ただ、これは「メタボ」に「症候群」がついた形であり、誌面節約のための臨時的な略語とも言えます。また、一方では、「メタボリ」と省略される場合もありました。
〈この腹囲をオーバーしたうえに血圧、血糖値、中性脂肪が基準値を二つ以上超えた人は「メタボリ正規軍」、一つ該当が予備軍となる。〉(『毎日新聞』〔社説〕2006.8.10 p.5)
「メタボリック症候群」の省略形は「メタボ」か、「メタボリ」か。簡単には判断できませんでした。でも、そのうち、単独で「メタボ」と使う例が多くなりました。たとえば、NHKの番組「ためしてガッテン」で、「メタボチェック」に引っかかった人について、
〈この人たち全員メタボなの?〉(2007.4.4 20:00放送)
というナレーションが流れました。他の媒体でも、同じころから、〈メタボなにするものぞ〉〈脱メタボの近道〉など、「メタボ」が多く使われるようになってきました。この時点で、『三国 第六版』の原稿に〈……メタボ。〉という略語が入りました。
今日では、単に太っている人を「メタボな人」と称するまでになっています。この意味は、第六版には間に合いませんでした。次の改訂版での課題です。