外国語を訳すときには、ある単語を、文脈によっていろいろに訳し分けなければなりません。これは、外来語についても言えることです。『三省堂国語辞典 第六版』の新語でいえば、「エクステンション」がいい例です。基本的な意味は「延長」「拡張」ということですが、場合によって、電話の「内線」、大学の「公開講座」、それに、いわゆる「エクステ」、つまり、「つけ毛」の意味でも使われます。ある外来語を辞書に載せるときには、「ほかに意味がないか」と確かめる作業が、ぜひとも必要です。
今回の第六版で、「ポーション」ということばを収録しました。「一部」のことですが、一般には〈料理の一人前(の量)〉の意味で使われます。たとえば、次のように。
〈ポーションたっぷりで、大食漢の僕でも三皿で満腹。〉(『週刊文春』2006.10.19 p.56)
手元の用例を見るかぎりでは、このほか、「ミニポーション」(分量少なめ)とか「ハーフポーション」(半量)とか、要するに料理の分量に使われる例しかありませんでした。
ところが、念のため、インターネットで「ポーション」を検索すると、ほかに、シロップなどを入れた小さな容器のこともそう呼ぶらしいことが分かりました。通信販売などのサイトで、そういう例が出てきます。インターネットのおかげで、発見がありました。
もっとも、インターネットでは、一部で使われているにすぎないことばが、あたかも広く使われているような印象を与えることがあります。そこで、確認のために、近所のスーパーに足を運んでみました。すると、やはり、コーヒーに入れるシロップやクリームなどに、「ポーション」が使われています。
〈本品は保存料を使用しておりませんので、ポーション開封後はすみやかにご使用ください。〉(日新製糖「ガムシロップ カロリーゼロ CZ-16」)
〈ポーションをあける時に、液が飛び散る事がありますので、ご注意ください。〉(森永乳業「クリープ ポーション」)
おそらく、スーパーによく行くコーヒー好きの人にとっては、「ポーション」はおなじみのことばだと考えられます。結局、「ポーション」の2番目の意味として、
〈〔シロップなどの〕一回分(を入れた容器)。「―パック」〉
という語釈が入りました。ほかの辞書には、まだ見当たらない意味です。