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曲のエピソード
最近、レディ・ガガを揶揄して批判されたり、エルトン・ジョンに「マドンナはアーティストとしてもう終わった」と公の場で罵倒されたりと、何かと受難続きのマドンナ。しかしながら、彼女がアメリカ及び世界中のミュージック・シーンに残した痕跡は、決して消えるものではない。過去に膨大な数に上るヒット曲を放っているが、この「Like A Virgin」(同タイトルの2ndアルバムからの1stシングル)の大ヒットによって、彼女は一気にスーパースターへの階段を駆け上った。全米チャートでは6週間にわたってNo.1の座を死守し、デビューから現在に至るまで、唯一R&Bチャートのトップ10入り(No.9)を果たした曲でもある。当時、FEN(現AFN)のR&B/ソウル・ミュージックの専門番組(Don Tracy,Roland Bynumなど)でも、耳にタコができるほどこの曲が流れていたものだ。
実は、この曲はもともとマドンナのために書き下ろされたものではなく、何と男性シンガー向けに作ったものであると、作詞作曲者のうちのひとり、ビリー・スタインバーグ(Billy Steinberg)がマスコミのインタヴューで明かしている。日本人にはピンと来ないかも知れないが、“virgin”には「処女」の他に「童貞」という意味もあるのだ。つまり、性別に関係なく、性の体験がない人を“virgin”と呼ぶ。
まだ誰がレコーディングするとも決まっていなかった「Like A Virgin」のデモ・テープを所属レーベルのスタッフが彼女に聞かせたところ、瞬時にして気に入り、レコーディングするに至ったという。もしこの曲を男性が歌っていたなら、後のスーパースター:マドンナはなかったかも知れない。
曲の要旨
あなたに出逢うまで、あたしは人生に迷いながらも、苦しい日々を何とか乗り越えてきたのよ。悲しくて憂鬱な毎日を送っていたあたしに、光を射し込んで生まれ変わったような気分にさせてくれたのはあなた。あたしを、まだ男性経験のないヴァージンだと思って、あたしの身体に優しくそっと触れてちょうだい。あなたが側にいてくれるだけで心強く感じるし、大胆にもなれるの。この命が尽きるまで、あたしはあなたのものよ。あなたに抱かれて身体ごと愛されると、もうたまらない気持ちになっちゃうんだもの。
1984年の主な出来事
アメリカ: | ロサンゼルスでオリンピックが開催される(但し、旧ソ連と東欧諸国は不参加)。 |
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日本: | 江崎グリコの社長が誘拐され、後のグリコ・森永事件へと発展。 |
世界: | イギリスのサッチャー首相が中国を訪問し、1997年に香港を返還するとの共同声明を発表。 |
1984年の主なヒット曲
Karma Chameleon/カルチャー・クラブ
Footloose/ケニー・ロギンス
Time After Time/シンディ・ローパー
When Doves Cry/プリンス
Wake Me Up Before You Go-Go/ワム!
Like A Virginのキーワード&フレーズ
(a) make it through
(b) someone’s heart beats next to mine
(c) feel(s) so good inside
後年、マドンナは、この曲をレコーディングしたいと思った根拠のひとつに、「あたしのキャラと違うから却って面白いと思った」といったような旨の発言をしている。確かにその通り。そして、「第一、当時、あたしはヴァージンじゃなかったし」とも。大胆な発言で知られるマドンナらしいあけすけな言葉である。
「カマトト」、「ブリッ子」などという日本語はとっくに死語だろうが、イタリアのヴェニスで撮影されたこの曲のプロモーション・ヴィデオ(PV)では、セクシーな素振りをところどころで見せつつも、時折、それこそカマトトぶったマドンナの姿を見ることができる。今となっては貴重なPVだと言えるだろう。
(a)は正式なイディオムではないが、会話の中や洋楽ナンバーの歌詞、映画やドラマのセリフに頻出する言い回しで、“overcome ~(~に打ち克つ、~を乗り越える)”、“survive a difficulty(困難に耐えて生き延びる)”に近いニュアンス。(a)を意訳するなら、「(いろいろ大変だったけど)どうにかこうにかやっていく、生きていく」となるだろうか。主人公の女性は、曲に登場する男性と出逢うまで、決して楽しい人生を送ってはこなかった、ということが、(a)を含む1stヴァースから見て取れる。実際、デビュー前のマドンナが、ホームレス同然で路上のごみ箱の中から食べ物を漁って口にしていた、というのは、有名なエピソードだ(現在、80歳近くになる元英語教師の筆者の叔母までもがそのエピソードを知っていたのには驚いた)。
(b)もまた、ラヴ・ソングでよく見聞きする定番のフレーズのひとつ。(b)を含むフレーズを書き換えると、以下のようになる。
♪… your heart beats next to my heart
つまり“mine”はイコール“my heart”というわけ。こうした言い回しは英語に多く、例えば、筆者が高校時代、試験に次のような設問が出た。
Q:以下の二つのセンテンスを一つにまとめよ。
He has good friends. I have good friends, too.A:He has good friends like mine.(mine=my friends)
洋楽ナンバーに(b)の言い回しが登場した際、大抵は♪… next to mineとなっており、そして必ず前後のフレーズの最後の言葉と押韻している。
この曲で最も「カマトト」らしからぬフレーズが(c)である。これも洋楽ナンバーのラヴ・ソングに頻繁に用いられる言い回しのひとつだが、直訳すると「心(もしくは身体)の内側が気持ちいい」――これでは中学生レベルの翻訳になってしまう。曲の主人公の女性は、「あなたに抱かれて、あなたの鼓動を感じ、あなたに愛される時に」(c)の状態になる、と歌っているのだ。(c)を詩的に意訳するなら「身体中が火照ってくるの」、ちょっぴりお下劣に意訳するなら、「身体中がムラムラしちゃう」といったところか。(c)が曲の終盤に出てくるあたりも心ニクい配慮である。だいたい、当時、この曲を聴いて、マドンナが本気で「あたしをヴァージンだと思って……」と相手の男性に向かって言ってるなんて、誰ひとり思っていなかっただろうから。
マドンナにとっての初の全米No.1ヒットとなった、記念すべき「Like A Virgin」から早28年。最近、常軌を逸した行動や、奇行が目立つ彼女だが、かつて“セクシーな処女”のフリをして全米チャートを制覇したポピュラー・ミュージック界の「聖母マリア」は、一体どこへ向かおうとしているのだろうか……?