平成26年10月1日から30日にかけて、法務省は、戸籍法施行規則の改正案に対するパブリックコメントをおこないました。この改正案は、人名用漢字に「巫」の1字だけを追加するものでした。このパブリックコメントに対し、筆者は個人的に、以下のコメントを法務省に送りました。
巫を人名用漢字に追加することは大賛成です。しかしながら、大阪高裁H19(ラ)486号や名古屋高裁H26(ラ)127号の決定にもとづいて、穹や巫を常用平易だと認めるのなら、平成16年の法制審議会人名用漢字部会の議論は、そもそも大きな誤謬を含んでいたと考えられます。平成16年5月28日の人名用漢字部会議事録を読む限り、かなり恣意的(泪や檸檬を落とすため)な論法を用いることによって、以下に示すJIS第2水準漢字179字が人名用漢字の追加候補から落とされているからです(当日資料20『漢字データベース第4版II』における出現順位順)。
諧膀胱澤曼几勒喩魏贅闍埃罹羞疼尹聚邇朧訝槃薇薔巫涅榴拮于帷雉禊楔棹肚瞑嶽祠訶鸞嬌悸靡殷軋圀襄濤證泪淮恣諷綽哥瑜讚娑韋彷渾揶婉恍翅蓼躬楫剋仍聰燵篝學吼莢佩俚仄汪壹當琲癸曠囀梳靄籐齋爬霰綏摯游藺朶憬礒璋梟杼槐會宸嗄飄徨溪浚瀟邂弖噤瀾筍幟誡舳沁躾夭糺戈寶輦滄矣茲矜奘縷艫瑣茗杞框沽欒欅聲翡淙楷鬨崋荀籟芬稷櫟們磊玻楡塒榕檬馮怡棗尓薊鎬娟喃皎檸嬪獨腥號霖驥洙螢薺恫厦穹
JIS第1水準漢字に対してはこのような作為はおこなわれておらず、ある種の偏見がJIS第2水準漢字にだけ向けられた結果、これら179字が人名用漢字追加候補から落とされているのです。これら179字のうち、穹が平成21年4月30日に、諧喩羞恣摯憬楷の7字が平成22年11月30日に子の名づけに認められ、今また巫を人名用漢字に追加するとのことですが、179-1-7-1=170字も残っており焼け石に水だ、とコメントさせていただきます。JIS第2水準漢字の常用平易性について、法制審議会での再審議をおこなわない限り、今後も不毛な家事審判によって、法務省民事局も、各市区町村長も、そして子の両親も消耗するばかりです。ぜひ、法務大臣から法制審議会に諮問いただき、人名用漢字再追加の議論をおこなうことを強く要望いたします。
戸籍法施行規則の改正は、平成26年12月を予定していて、人名用漢字に「巫」が追加される手はずになっています。1字だけの追加ですので、これで人名用漢字は862字になり、常用漢字と合わせると、合計2998字になる予定です。
正直なところ、「巫」に対する松阪市長の意見書および抗告理由書は、近来まれに見るヒドイ書面でした。現在の戸籍法第121条の話をしているのに昭和57年の法律書が出てきたり(続編第2回参照)、「平成21年4月30日に一部改正」と書いていながら「穹」の大阪高等裁判所決定[平成19年(ラ)第486号、平成20年3月18日]を無視してみたり(続編第3回参照)、「曽」の最高裁判所決定[平成15年(許)第37号、平成15年12月25日]が脈絡なく出てきたり(続編第4回参照)、そうかと思うと平成16年の人名用漢字部会に盲従してみたり(続編第5回参照)。津地方法務局が松阪市長側の代理人として関わっているはずなのに、何のコケオドシをやってるんだ、という印象を、強く感じる内容です。普通なら騙されてしまいかねないところですが、「天巫」ちゃんの両親はコケオドシに負けることなく闘い抜き、津家庭裁判所松阪支部も名古屋高等裁判所もそれに応えました。
ただ、筆者は思うのです。こういう家事審判は、あまりに不毛なのではないか。子供の名づけに関する家事審判は、今日も日本中で争われています。しかしそもそも、平成16年の人名用漢字部会の審議に問題があったからこそ、今現在こんなにも多くの家事審判が争われる結果となっているのです。法制審議会での再審議をおこなわない限り、不毛な家事審判が今後もずっと続くことになります。平成16年から10年も経過した今、見直すべきは人名用漢字それ自体なのです。