平成22年6月7日、文化審議会は改定常用漢字表を答申しました。改定された常用漢字表は、年内に内閣告示される予定です。では、常用漢字表の改定は、人名用漢字にどのような影響を及ぼすのでしょう。その概要を、全4回で書き記すことにいたします。
常用漢字表の改定の概要
現在の常用漢字表は、昭和56年10月1日に内閣告示されたもので、1945字を収録しています。これに対し、改定常用漢字表は2136字を収録しており、うち1940字が常用漢字表を引き継いでいます。つまり、常用漢字表から5字を削除し、代わりに196字を追加したものが、新しい常用漢字表だといえます。削除されるのは「勺」「錘」「銑」「脹」「匁」の5字、追加されるのは以下の196字(角カッコは許容字体、丸カッコは康煕字典体)です。
角カッコに入った許容字体
常用漢字表と改定常用漢字表との間で特筆すべき変更点は、「餌」「遡」「遜」「謎」「餅」の5字に対して、角カッコに入った許容字体が添えられていることです。これまでの常用漢字表では、「進」のような1点しんにゅうや、「飲」のような新字の食へんが標準字体でした。ところが新たに追加される196字では、2点しんにゅうや旧字の食へんが標準的な字体として採用されたのです。ただし、この措置は、新たに追加される196字だけで、これまでの常用漢字表を引き継いだ1940字に関しては、これまでどおり1点しんにゅうや新字の食へんが使われています。なぜ、こんな妙なことになってしまったのでしょう。
実は、新たに追加される196字の字体は、国語審議会が平成12年12月8日に答申した表外漢字字体表を、基本的に引き継いでいます。表外漢字字体表は、常用漢字(および当時の人名用漢字)以外の漢字に対して、印刷に用いる字体のよりどころを示したものでしたが、その字体はいわゆる旧字体でした。「餌」も「遡」も「遜」も「謎」も「餅」も、表外漢字字体表では2点しんにゅうや旧字の食へんで示されており、改定常用漢字表でもそれを引き継いだのです。しかしそれでは、これまでの常用漢字表とは字体がかけ離れてしまうことから、許容字体と呼ばれる新字体を、角カッコに入れて添えておくことにしたのです。
新しい常用漢字表は、今年中に内閣告示される予定です。また、新しい常用漢字表の内閣告示と同じ日に、戸籍法施行規則の改正という形で、人名用漢字も変わる予定です。では、人名用漢字はどのように変わるのでしょう。
(第2回「勺」「錘」「銑」「脹」「匁」につづく)