どういう意味?
「偏(かたよ)りを生じさせるもの」です。「バイヤス」ともいいます。
もう少し詳しく教えて
バイアス(bias)は英語で、「偏り」に関係する様々な意味を持つ言葉です。日本語でも、おおむね英語と同様の意味で用いられます。
もっとも一般的に使われる意味は「偏りを生じさせるもの」です。例えば「評価にバイアスがかかっている」と表現した場合、「評価者が持つ先入観や偏見が影響して偏った評価がなされている」ことを意味します。
いっぽうで一部に「斜め」を意味するバイアスも存在します。英語の bias も、もともとの意味は「斜め」です。
どんな時に登場する言葉?
「偏り」のバイアスは、思考・心理・思想などが関わる分野や、統計学・心理学・社会学・疫学・電気・電子・経済などで登場します。また「斜め」のバイアスは、機械・服飾などの分野で登場します。
どんな経緯でこの語を使うように?
戦前にも見られる言葉です。例えば河北新報の1919年(大正8)6月23日付けの記事「講和条約雑感」には、国際連盟の発足に関するこんな記述が登場します。「蓋し(けだし=思うに)委員長は勿論(もちろん)是等(これら)諸会議の委員等は皆各時その国家の下(もと)に於(お)ける一国民なり(中略)国家本位主義にして厳存(げんぞん)する以上到底国家的バイアスを免(まぬか)れざるものなり」(参考:神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫、外交(26-114))国際連盟の会議の委員長も委員たちも、それぞれの国の国民である以上は国家という観点を取り除くことはできません。ここではそうした立場の偏りを「国家的バイアス」と言っています。
ただし、現在のように一般的に使われるようになったのは、80年代ごろと考えられます。
バイアスの使い方を実例で教えて!
「バイアスがかかる」
バイアスには様々な言い回しが存在します。何らかの原因によって偏りが生じている場合は「バイアスがかかる」、意図的に偏りをつくる場合は「バイアスをかける」「バイアスを加える」、何らかの要因によって偏りが大きくなっている場合は「バイアスが強い」、偏りを生む原因を排除する場合は「バイアスを排除する」などのように表現できます。
「ジェンダーバイアス」
男女の役割について存在する固定観念を「ジェンダーバイアス(gender bias)」とよびます。例えば「男性は外で仕事をするべきだ」「女性は家を守るべきだ」といった考え方が、これに相当します。なおジェンダー(gender)とは「社会的な性」という意味。「生物的な性」を意味するセックス(sex)と区別するための言葉です。
統計の「バイアス」
統計学でもバイアスという言葉が使われています。分析に使う標本の選び方に偏りがある場合や、分析によって推定した結果が実像とかけ離れている場合などに、バイアスという用語が使われます。
心理学の「バイアス」
いっぽう心理学では、人が抱きがちな思い込みのことを「認知バイアス」と呼んでいます。例えば火災報知器が鳴った時に「たぶんこれは訓練だろう」と思い込む心理である「正常性バイアス」もそのひとつ。また詐欺に騙(だま)されている人が「自分は騙されていない」と信じたい一心で、周囲の助言に耳を貸さず詐欺師の言うことだけを聞いてしまう心理である「確証バイアス」も認知バイアスのひとつです。
電気・電子の「バイアス」
電気回路・電子回路の世界にもバイアスが登場します。ただしその具体的な意味は場合によって大きく異なるので注意が必要です。例えばトランジスタを用いた回路の場合、動作の基準とするためベースに与える電圧をバイアスとよびます。
斜めの「バイアス」
自動車などで用いるタイヤのひとつに「バイアスタイヤ」があります。骨格(カーカス)が進行方向に対して斜め方向に配置されているタイヤのことで、大型貨物自動車などに使われています。なお現在乗用車で主流となっているラジアルタイヤの場合、骨格が放射状に配置されています(ラジアルは放射状の意)。
いっぽう服飾(裁縫)では、布の織り目に対する斜め方向をバイアスといいます。またこの向きに裁断された「帯状の布」を「バイアステープ」と呼びます。これは縁取りや裾(すそ)上げなどに用いる部品です。
言い換えたい場合は?
多くの場合、バイアスは「偏りを生じさせる何か」を意味します。したがって、バイアスを言い換える場合は「何か」を探り当てることが大切です。「何か」の正体は文脈にもよります。一般には「先入観」「偏見」「偏向」「思い込み」「贔屓(ひいき)」「色眼鏡」などの言葉で表現できるでしょう。また「バイアスがかかっている」という表現も「先入観にとらわれている」「偏見がある」などのように言い換えることが可能です。
なお専門分野におけるバイアスは、単純な言い換えが困難であることがほとんどです。その場合は文章で意味を補足してみてください。
雑学・うんちく・トリビアを教えて!
現在志向バイアス ある有名な実験があります。実験者がマシュマロを1つ置いた部屋に子どもを残し、実験者が戻るまでそのマシュマロを食べずにいたらもう1つマシュマロをあげる、と伝え、子どもの行動をみるものです。実験の結果、大部分の子どもが実験者が戻ってくる前にマシュマロを食べてしまったそうです。
目の前のマシュマロを食べてしまった子どもたちの心理は、行動経済学でいう「現在志向バイアス」で説明できます。未来により多くの利益が得られるとわかっていても、将来と現在をはかりにかけると、現在目の前にある利益の方を優先してしまう心理をいいます。