昭和17年6月17日に国語審議会が答申した標準漢字表2528字には、新字の「碍」と旧字の「礙」の両方が含まれていました。新字の「碍」は準常用漢字、旧字の「礙」は特別漢字となっており、一般の生活には「碍」を用いるが、皇室典範や帝国憲法などには「礙」を用いることになっていました。ところが、昭和21年11月5日に国語審議会が答申した当用漢字表1850字には、「碍」も「礙」も含まれていませんでした。当用漢字表は、翌週11月16日に内閣告示されましたが、やはり「碍」も「礙」も収録されていませんでした。そして、昭和23年1月1日に戸籍法が改正された結果、「碍」も「礙」も子供の名づけに使えなくなってしまったのです。
平成21年11月10日、文化審議会国語分科会は「改定常用漢字表」に関する試案を発表しました。この試案は、常用漢字1945字に対し、5字を削除して196字を追加する案で、2136字を収録していました。しかし、この試案は「碍」も「礙」も収録していませんでした。国語分科会は11月25日から12月24日まで、この試案に対する意見募集をおこないました。そうしたところ、常用漢字に「碍」を追加してほしい、という意見が86通も集まったのです。「障害者」ではなく「障碍者」と常用漢字で書けるようにしてほしい、という意見だったのです。
国語分科会は、常用漢字に「碍」を追加するかどうかについては、内閣府において発足したばかりの障がい者制度改革推進本部に、ゲタを預けることにしました。これを受けて、障がい者制度改革推進本部は、障がい者制度改革推進会議の配下に、「障害」の表記に関する作業チームを発足させました。作業チームは、平成22年8月9日から11月15日まで、合計6回のヒアリングと会合をおこないました。その中で、「障害」や「障碍」あるいは「チャレンジド」などの表記が議論されたのです。
「障害」の表記に関する作業チームは、平成22年11月22日、障がい者制度改革推進会議に、「障害」の表記に関する検討結果を報告しました。作業チームの検討結果は、『法令等における「障害」について、現時点において新たに特定のものに決定することは困難である』というものでした。作業チームの検討結果を受けて、障がい者制度改革推進会議は、「障害」の表記の見直しについては今後の継続課題とし、法令等における「障害」の表記は、当面の間、変更しないことを決定しました。「障害者」という表記を、とりあえずは使い続けることになったのです。
平成22年11月30日、新しい常用漢字表2136字が内閣告示されました。「障害」の表記をとりあえずは変更しない、という、障がい者制度改革推進会議の決定を受けて、「碍」は常用漢字に追加されませんでした。この結果、新字の「碍」も旧字の「礙」も、子供の名づけには使うことができないのです。