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『三省堂国語辞典』のすすめ その76

2009年 7月 15日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

電子ライターを分解してみる。

フリント式ライター
【フリント式ライター】

 『三省堂国語辞典 第六版』の新規項目の候補として、一時期、「フリント」(発火石)が挙がっていました。ライターの上についているローラー状のやすりを指で回すと、このフリントがこすられて火花を生じます。もっとも、やや専門的な語であり、また、フリントを使わないライターもあるので、結局採用は見送られました。

 ところが、これがひとつのきっかけで、「ライター」の項目も見直すことになりました。『三国』では、「ライター」は、1960年の初版以来、次のように説明していました。

【フリントをこすって点火】
【フリントをこすって点火】

 〈発火石を こすってタバコの火をつける器具。〉

 昔のライターはこのようなフリント式だけでしたが、今では電子ライターもあります。〈発火石を こすって〉は限定しすぎのようです。ただ、電子ライターにも発火石に相当するものが入っていないかどうか、いちおう確かめておきたいと思いました。

 百科事典を見ると、電子ライターには「圧電素子」というものが使われていて、これが発火に関係しているようです。この「圧電素子」とはどんなものか、この目で確認するため、思い切ってライターを分解してみました(どうか、まねされませんように)。

【柱状ボタンの中身】
【柱状ボタンの中身】

 電子ライターは、プラスチックで覆われた柱状ボタンを押し下げることで点火します。ライターのふたを取り去って、柱状ボタンを指で直接押すと、びりっと強い電気を感じます。この電気がどうやって生まれるかは、柱の中身を見れば分かります。

 柱状ボタンを火であぶって溶かすと、中からいろいろな部品が出てきます。スプリング、ハンマー、そして鉛筆の芯のような棒状の物質です。この棒が圧電素子です。柱状ボタンを押す時、ハンマーが圧電素子をたたいて、電気が生まれ、燃料に引火するのです。

 ここまでの作業で、「ライター」の項目の〈発火石を こすって〉という説明は不適切であることが明らかになりました。かといって、「発火石をこすったり、圧電素子をハンマーでたたいたりして」では、何のことだか分かりません。

 点火方式が1つに決まっていないということは、「ライター」の意味を説明するにあたって、点火方式の説明が必須ではないということでもあります。それで、さんざん研究したにしては拍子抜けのする話ですが、『三国 第六版』の「ライター」は、〈タバコの火をつける器具。〉と、ごく簡単な一文で説明されることになったのです。

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筆者プロフィール

【飯間先生の新刊『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』】飯間浩明(いいま・ひろあき)
 早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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【編集部から】
生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され、「【サンコク】メディアでの紹介」の記事にある通り、各方面で取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。

2009年 7月 15日