人名用漢字の新字旧字

第75回 「篭」と「籠」

筆者:
2010年11月4日

新字の「篭」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。旧字の「籠」は、今は子供の名づけに使えませんが、今月末で常用漢字になるので、それ以降は子供の名づけに使えるようになります。でも、今の時点では「篭」も「籠」も、出生届に書いてはダメなのです。

昭和53年1月1日に制定された漢字コード規格JIS C 6226では、旧字の「籠」が第1水準漢字、新字の「篭」が第2水準漢字でした。ところが、昭和58年9月1日の規格改正で「籠」と「篭」は入れ換えられ、新字の「篭」が第1水準漢字に、旧字の「籠」が第2水準漢字になってしまいました。

平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、平成12年3月に文化庁が書籍385誌に対しておこなった漢字出現頻度数調査、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。旧字の「籠」は漢字出現頻度数調査の結果が233回でしたが、全国50の法務局から不受理の報告はありませんでした。もし「籠」が第1水準漢字だったなら、出現頻度233回なので、人名用漢字の追加候補になれるはずでした。しかし、「籠」は第2水準漢字だったので、法務局数が0であれば、出現頻度に関係なく追加候補から外されました。一方、新字の「篭」は出現頻度31回で法務局数が1だったので、追加候補にはなりませんでした。

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漢字出現頻度数調査には、「籠」とは別に「7画目が横棒の籠」(画像参照)も含まれていて、出現頻度3789回とダントツだったのですが、人名用漢字部会はこの字をあえて無視しました。

この結果、「篭」も「籠」も「7画目が横棒の籠」も、人名用漢字になれませんでした。ですので、今日現在の時点では、「篭」も「籠」も「7画目が横棒の籠」も子供の名づけに使えません。しかし、話はこれで終わりではないのです。

平成18年3月、文化庁は新たに、書籍860冊を対象とした漢字出現頻度数調査を公表しました。文化審議会国語分科会のもと発足した漢字小委員会が、常用漢字表の改定作業を進めており、その基礎資料とするためです。新たな漢字出現頻度数調査では、「篭」が31回、「籠」が507回、「7画目が横棒の籠」が6823回という結果でした。ところが、漢字小委員会が国語分科会に報告した「新常用漢字表(仮称)」に関する試案(平成21年1月27日)では、「籠」を常用漢字に追加すべきだとしていました。「篭」や「7画目が横棒の籠」ではなく、「籠」が常用されている、と漢字小委員会は判断したのです。

平成22年6月7日、文化審議会は改定常用漢字表を答申しました。改定常用漢字表には「籠」が収録されていましたが、「篭」も「7画目が横棒の籠」も含まれていませんでした。そして、今月末には新しい常用漢字表が内閣告示されて、「籠」は常用漢字になる予定です。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター准教授。京都大学博士(工学)。JIS X 0213の制定および改正で委員を務め、その際に人名用漢字の新字旧字を徹底調査するハメになった。著書に『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字コードの世界』(東京電機大学出版局)、『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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