社会言語学者の雑記帳7-1 忘却とは
2011年 5月 28日 土曜日 筆者: 松田 謙次郎忘却とは
言語学を少しでもかじったことがあるみなさん、「音素」って覚えてますね(´∀`) たぶん「言語学概論」なら5月くらいには習う術語なので、現在進行形で入門の授業を取っている人は、習ったばかりかも知れません。ある言語における音の機能的な単位であり、最小対や相補分布といった方法で発見される、といったことが分かっていれば、あとは練習問題が解ければ無問題でしょう。
それではここで問題です。この音素の概念を最初に提唱した人は誰でしょう? ちょっと考えてしまいますね。ボードゥアン・ド・クルトネというポーランド人言語学者が正解です。ただし、phonemeという英語の術語を最初に使った人はダニエル・ジョーンズであり、また音素概念をめぐってはエドワード・サピア、ニコライ・トゥルベツコイ、レナード・ブルームフィールドらがさまざまな説を唱えており、日本でも論争がありました。
言語学者でもボードゥアン・ド・クルトネの名前が出る人はあまり多くないかも知れません。「音素」という概念そのものは言語学者なら誰しもが知っている、かなり基礎的にして重要な概念でありながら、その提唱者の影はかなり薄い。当コラムをお読みの方で上の問題にすぐに答えられた人は、おそらくどこかで入門以上の言語学(ないし音韻論)の授業を受けたことがあるか、かなりな言語学オタク(!)なのでしょう( ̄― ̄)ニヤリ
しかしなぜこのような重要な概念であるにもかかわらず、その提唱者はあまり知られていないのでしょう?(*゚Д゚)アレ? たしかにド・クルトネの業績一般があまり知られていないのも事実です。また、「言語学を理解するのに必ずしも言語学史を知る必要はない」という考えにも一理あります。が、教科書の執筆者がみなこうした考えを持っているから提唱者の名前が知られていないというわけでもないでしょう。提唱者の名前を出すだけの紙幅がない、というのも疑問です。たった一行足らずで済むことですから。
結局その理由は、アメリカの科学社会学者ロバート・マートンが提唱した「取り込みによる忘却 (Obliteration by Incorporation, OBI)」 によるものと考えられます。OBIとは、……(次回につづく)
次回へ >>
* * *
◆連載を続けてお読みになる方は⇒「社会言語学者の雑記帳」アーカイブ
◆記事のタイトルからお探しになる方は⇒「社会言語学者の雑記帳」目次へ
【筆者プロフィール】
松田謙次郎(まつだ・けんじろう)
神戸松蔭女子学院大学文学部英語英米文学科、大学院英語学専攻教授。Ph.D.
専攻は社会言語学・変異理論。「人がやらない隙間を探すニッチ言語学」と称して、自然談話データによる日本語諸方言の言語変化・変異現象研究や、国会会議録をコーパスとして使った研究などを専門とする。
『日本のフィールド言語学――新たな学の創造にむけた富山からの提言』(共著、桂書房、2006)、『応用社会言語学を学ぶ人のために』(共著、世界思想社、2001)、『生きたことばをつかまえる――言語変異の観察と分析』(共訳、松柏社、2000)、『国会会議録を使った日本語研究』(編、ひつじ書房、2008)などの業績がある。
URL:http://sils.shoin.ac.jp/%7Ekenjiro/
【編集部から】
「社会言語学者の雑記帳」は、「人がやらない隙間を探すニッチ言語学」者・松田謙次郎先生から キワキワな話をたくさん盛り込んで、身のまわりの言語現象やそれをめぐるあんなことやこんなことを展開していただいております。







![『新明解国語辞典 第七版[机上版]』7年ぶりに改訂『新明解国語辞典』の机上版。判型は並判より大きいA5判で、さらに文字が大きく見やすい。2色刷。紙面内容は並版と同一。 『新明解国語辞典 第七版[机上版]』](http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp-images/smk_kijo.jpg)
![『新明解国語辞典 第七版[小型版]』7年ぶりに改訂『新明解国語辞典』の小型版。並判より一回り小さいA6変型判で、携帯にも便利。2色刷。紙面内容は並版と同一。 『新明解国語辞典 第七版[小型版]』](http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp-images/smk_kogata.jpg)
![『新明解国語辞典 第七版[革装版]』7年ぶりに改訂『新明解国語辞典』の革装版。丈夫で使うほどに手になじむ。判型は並版・特装版と同じB6判。2色刷。紙面内容は並版と同一。 『新明解国語辞典 第七版[革装版]』](http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp-images/smk_kawaso.jpg)























































































































































2007年









