地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第335回 大橋敦夫さん:福井でフィールドワーク

筆者:
2015年8月22日

北陸新幹線開業の時流に乗って,なおかつ「食べにきね、福井」〔食べにいらっしゃい,福井へ〕【写真1】の誘いにも乗って,さらなる新幹線延伸が予定されている福井へ行ってみると……。

福井駅前には,福井市地域交流プラザが鎮座。その愛称は「アオッサ(AOSSA)」〔会いましょう〕【写真2】。

【写真1】福井への旅を誘う看板
【写真1】福井への旅を誘う看板(クリックで拡大)
【写真2】福井市地域交流プラザAOSSA外観
【写真2】福井市地域交流プラザAOSSA外観(クリックで周辺も表示)

地元の方に伺うと,「きね」よりも「きねの」,「あおっさ」よりも「あおっさの」の方が,より親しみがわく言い方との由。そのためでしょうか,坂井市の文具店のオリジナル商品である方言金封(のし袋に福井方言をあしらったもの)の語例も,以下のとおり,「の」の使用がポイントになっています。

「かたいけの」〔お元気ですか〕
「またきねの」〔また来てね〕
「ありがとの」〔ありがとう〕
「おおきんの」〔ありがとう〕
「つるつるいっぱいの愛情」〔あふれんばかりの愛情〕

これまで本サイトで,福井がメインに取り上げられたのは,第139回「いやしの方言(福井県)」のみで,方言グッズが紹介されています。それは,現代的な商品である携帯電話用の画面クリーナーの表面に,福井方言によるメッセージが記されたものと,オーソドックスな商品である福井方言の番付を染め抜いた方言手ぬぐいの2種でした。

今回の調査で,方言グッズに加えて,方言メッセージと方言ネーミングがあることが確認できました。福井方言を対象にしたものは,今まで,報告が少なかっただけで,多種多様なものがあることがわかりました。

上記の例以外でも,下記のようなものが記録できました。

○方言グッズ
「これがうまいんじゃ福井」〔これがおいしいですよ〕……サトイモの煮物
「福井方言豆知識」……おせんべい(第243回「青森の方言名のお菓子」第248回「方言名のお菓子の全国展開」で取り上げられている「方言豆知識」シリーズの一つ)
「おちょ金時」……福井特産のサツマイモ「越前金時」を用いた焼き菓子
方言Tシャツ
 「おちょきんしねまっ!」〔正座しなさい〕
 「おちょきん」〔正座〕
 「じゃみじゃみ」〔テレビの画面が,砂嵐のようになっていること〕
 「だわもん」〔怠け者〕
 「つるつるいっぱい」〔あふれるほどいっぱい〕
 「ちゃまる」〔捕まる〕
 「ちゅんちゅん」〔すごく熱い状態〕

○方言メッセージ
「好きやざぁ!福井」……某ビールメーカーのご当地ポスターの標語

こうして見ると,「おちょきん」〔正座〕が好まれていることがわかります。語呂合わせに好適な語だと,一気に用例が増える可能性がありますね。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。