地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第338回 日高貢一郎さん:『もんげー 岡山!』でイメージアップ大作戦

2015年10月3日

岡山県は「晴れの国」というキャッチフレーズがあるように,瀬戸内・山陽路にあって,海と山の幸に恵まれ,気候も温暖な土地柄です。(第223回「『グルグルおかやまB級グルメ』で地域おこし」を参照)その岡山がいま,地元の方言「もんげー」をキーワードにして,県を挙げてキャンペーンを展開。岡山県の存在感と魅力をアピールしてイメージアップを図っています。

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【写真1】PRポスターの1枚(提供:岡山県公聴広報課)
【写真1】PRポスターの1枚
(提供:岡山県公聴広報課)
【写真2】PRポスター 右・伊原木隆太知事,中・葛城ユキ,左・桃瀬美咲(提供:岡山県公聴広報課)
【写真2】PRポスター 右・伊原木隆太知事,
中・葛城ユキ,左・桃瀬美咲
(提供:岡山県公聴広報課)

県の公聴広報課によると,2014年度から今回のこの取り組みをスタートさせました。その「シンボルになる語」の候補になったのは地元出身の3人が推薦する〔非常に〕を意味する岡山の方言で,インターネットを活用して投票(2014.9.9~9.15)を呼びかけました。ロック歌手=葛城ユキの推す「でーれー」,作家=岩井志麻子の推す「ぼっけー」(第269回「「ぼっけぇ」岡山」を参照),それにタレント=桃瀬美咲の推す「もんげー」の3語で競った結果,「もんげー」が48%の票を集めて1位になりました。2位「ぼっけー」,3位「でーれー」でした。(//www.pref.okayama.jp/chiji/kocho/hareoka26/hareoka_2612/html/sp1.html参照)

「でーれー・ぼっけー」に比べて「もんげー」は地元でも知名度は高くなく,テレビの人気アニメ番組『妖怪ウォッチ』に登場する,神社の狛犬(こまいぬ)の妖怪「コマさん」が口癖として発することばが「もんげー」で,これは全国的に知られており,特に子供たちや若い世代に親しまれていることなどが投票にも反映されたのではないかと見られています。

地元の人たちにとっては,いわばダークホースの「もんげー」がキャンペーンのキーワードとして選ばれたのですから,ちょっと,否,でーれー意外な展開だったわけです。以後,「もんげー」を前面に押し立てて活動が繰り広げられることになりました。【写真1・2】 「でーれー」を推した葛城ユキも,PR用テーマソング『もんげー岡山!』では,方言の歌詞を力強く歌っています。

再生ボタンを押すと開始  //youtu.be/QKuiGUtf9d0

では「もんげー」とはどういう意味のことばでしょうか? 『日本方言大辞典』(小学館)で「もんげー」を探すと「ものげー」を見よとあり,その「ものげー」を見ると,意味は〔たいへん,ものすごく〕とあり,使用地域としては岡山県が,また異なる語形として「もんげー」には岡山県と香川県が,「もんがい」には岡山県が挙げてあります。

県では伊原木隆太(いばらぎ・りゅうた)知事が先頭に立ち,PRに大層力を入れています。ディズニー映画とタイアップしたり,ロゴマーク(「もんげー」と言うときの口の形を象ったものの由)とバッジを作り,マークは誰にでも自由な使用を認めたり,岡山県のファンになって応援してくれる人を「もんげー部」の部員にしたり,さらには「晴れの国」にちなんで「8092人」を目標に「岡山に移住しませんか? 岡山県でもんげー未来を!」と,岡山に移住して来る人たちを広く募集しています。

ふつうメジャーな方言があればそれを活用しそうなところですが,マイナーな語である「もんげー」を選んでの今回の“認知度向上とイメージアップ大作戦”。それが今後どういう効果を発揮するか,ぼっけー珍しいケースとして,方言研究の面からも注目されます。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。