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広告の中のタイプライター(5):Oliver No.9

2017年 4月 13日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Popular Science Monthly』1919年2月号

『Popular Science Monthly』1919年2月号(写真はクリックで拡大)

「Oliver No.9」は、シカゴのオリバー・タイプライター社が、1915年から1922年頃にかけて製造したタイプライターです。この時期のオリバー・タイプライター社は、奇数No.を国内向けモデル、偶数No.を輸出向けモデルとしていました。この「Oliver No.9」はアメリカ国内向けであり、次の「Oliver No.10」は輸出向けでした。

「Oliver No.9」は、28キーのダウンストライク式タイプライターで、左右に14個ずつ翼のようにそびえ立った活字棒(というよりは活字翼)が特徴的です。28個のキーからは、左右14個ずつのキーに分かれて、背面の奥へとシャフトが伸びています。各シャフトは、それぞれが活字翼に繋がっており、キーを押すと対応する活字翼が打ち下されて、プラテンの上に置かれた紙の上面に印字がおこなわれます。これにより、打った文字がその瞬間に見えるのです。28個の活字翼には、それぞれ活字が3つずつ埋め込まれていて、プラテン・シフト機構により、84種類の文字が印字できます。キーボード下段の左右端にある「CAP」を押すと、プラテンが奥に移動し、大文字が印字されるようになります。キーボード中段の左右端にある「FIG」を押すと、プラテンが手前に移動し、数字や記号が印字されるようになります。この活字翼と印字機構は、創業者オリバー(Thomas Oliver)の発明によるものですが、オリバーは1909年2月9日に亡くなっており、「Oliver No.9」そのものにはタッチしていません。

「Oliver No.9」は、重さが約28ポンド(13キログラム)もあり、当時としても、かなり重たいタイプライターでした。そのためか、本体下部の左右には、持ち上げるための取っ手がついています。また、2色インクリボン(通常は赤と黒)を装着可能だったのですが、それは、上の広告からは読み取れません。ちなみに、右活字翼の枠の上に付いているのは、ペンホルダーです。

「打った文字がその瞬間に見える」タイプライターは、1910年代には、もはや珍しくなくなっていました。「Oliver No.9」は、その意味では時代遅れになりつつあったのです。「Oliver No.9」の発売当時の価格は100ドルだったのですが、1917年には49ドルに値下げし、1919年には57ドルに値上げしています。上の広告にもあるとおり、月々3ドルずつの月賦払いも可能でした。ただ、月々3ドルだと、総額49ドルでは割り切れないので、割り切れる57ドルに値上げしたのだろうか、という憶測も働いてしまいます。また、57ドルはアメリカ国内向けの価格で、対カナダ向けは72ドルだったようです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

2017年 4月 13日