タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(6):Rex Visible Typewriter No.4

筆者:
2017年4月27日
『Popular Mechanics』1915年12月号

『Popular Mechanics』1915年12月号

「Rex Visible Typewriter No.4」は、ハリス(De Witt Clinton Harris)率いるレックス・タイプライター社が、1915年から1922年にかけて製造販売したタイプライターです。ハリスはそれまで、ウィスコンシン州フォンデュラックのハリス・タイプライター社で、「Harris Visible Typewriter No.4」などを製造していましたが、シカゴに本社を移した時点でレックス・タイプライター社に社名を変え、「Rex Visible Typewriter No.4」を製造販売しはじめました。

「Rex Visible Typewriter No.4」は、28キーのフロントストライク式タイプライターです。キー配列はいわゆるQWERTY配列で、各キーに大文字・小文字・記号(あるいは数字)の3種類の文字が配置されています。上段の10個のキーには、大文字のQWERTYUIOPと、小文字のqwertyuiopと、数字の1234567890が、それぞれ配置されており、その右側に「BACK SPACER」キー(上の広告では赤字の6)があります。中段の9個のキーには、大文字のASDFGHJKLと、小文字のasdfghjklと、記号の@$%^*=/¢#が、それぞれ配置されており、左右の端には「FIG」キーがあります。下段の9個のキーには、大文字側にZXCVBNM&.が、小文字側にzxcvbnm-,が、記号側に()?’”:;_.が、それぞれ配置されており、左右の端には「CAP」キーがあります。

28個の各キーを押すと、対応する活字棒(type arm)が立ち上がって、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。通常の状態では小文字が印字されますが、「CAP」キーを押すとタイプバスケットが持ち上がって大文字が、「FIG」キーを押すとタイプバスケットが下がって記号や数字が、それぞれ印字されます。「SHIFT LOCK」キー(上の広告では赤字の5)も準備されており、「CAP」キーもしくは「FIG」キーを押しっぱなしにできます。黒赤2色のインクリボンにより2色の印字が可能で、それを強調すべく、上の広告も2色刷りです。黒赤の切り替えは、本体右側のツマミ(上の広告では赤字の4)でおこないます。また、上の広告で赤字の3で示されているのは、改行幅を変更するためのレバーで、シングル・1½・ダブルスペーシングが設定可能だったようです。

この時点のレックス・タイプライター社は、自前の販売網を持たず、広告で各地の代理店を募る、という状態でした。ハリス・タイプライター社の時代には、シアーズ・ローバック社(Sears, Roebuck & Company)が代理店を務めており、全米に渡ってカタログ通信販売がおこなわれていたのですが、レックス・タイプライター社は、シアーズ・ローバック社以外の独自販路を開拓する、という経営判断をおこなったようです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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