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続 10分でわかるカタカナ語 第10回 バッファー

2017年 5月 13日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「バッファー」の意味と使い方

どういう意味?

 「衝撃を吸収するもの」または「余裕」「ゆとり」という意味です。「バッファ」ともいいます。

もう少し詳しく教えて

 バッファー(buffer)はもともと英語で「衝撃を吸収するもの」、すなわち「緩衝(かんしょう)」を意味する言葉です。

 この言葉が持つ中心的なイメージは「何かと何かの間に存在して衝撃を和らげる」というもの。例えば、昔の鉄道車両に付いていた緩衝器(バッファー)は「車両どうしがぶつかり合うときの衝撃を和らげる」ための装置でした。また大国に挟まれた緩衝国(バッファーステート)も「大国どうしの衝突を防ぐ」立ち位置にあります。

 コンピューター用語では、一時的にデータを蓄える記憶領域という意味で使われます。例えばキーボードなどの入力装置と、その入力情報を処理する装置の間に処理速度の差がある場合が考えられます。このようなとき、バッファーと呼ばれる一時的な記憶領域が間に入ることで、うまくその差が緩衝され、データを正しく処理できるというわけです。

 また、近頃ビジネスの世界では、予算・日程・人材・物資・在庫などに設ける「余裕」をバッファーと呼ぶことがあります。例えば日程の余裕がない事業の場合、個別の工程のどれかが長引くだけで事業全体の進行が遅れてしまいます。それを防ぐには、あらかじめ「余分な日程」を確保しておかなければなりません。言い換えるならば「個別の工程の間に、遅延を吸収できる予備の日程を差し込む」必要があるのです。その日程をバッファーと呼んでいます。

どんな時に登場する言葉?

 文字通りの「緩衝」を表すバッファーは、主としてコンピューター・政治・環境・化学・鉄道などの分野で登場します。予算・日程・人材・物資などの「余裕」を意味するバッファーは、ビジネスの場面で登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 専門用語としては古くから用例が存在します。例えば大正時代のある新聞記事には、鉄道用語として「バッファー用発条(はつじょう=バネの意)」が登場しました(参考:神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫/大阪朝日新聞1913年2月25日「汽車製造の進境」)。また別の新聞記事では、緩衝国を意味する「バッファーステート」が登場した例もあります(参考:同/日本新聞1914年9月14日「今後の日露関係」)。

 いっぽうコンピューター用語のバッファーは最近の用法です。1994年初版発行の「コンサイスカタカナ語辞典」にはすでにこの意味が記されています。

 「余裕」の意味で使われるバッファーは、さらに新しい用法です。ちなみにウェブサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』の人気投稿コーナー『オトナ語の謎』には、2003年6月18日公開分でビジネス用語としての「バッファ」が投稿されていました。

バッファーの使い方を実例で教えて!

「バッファーを持たせる」

 ビジネスの世界では「予算・日程・人材・物資・在庫などに設ける余裕」をバッファーと呼ぶ場合があります。またそのような余裕を確保することを「バッファーを持つ」「バッファーを持たせる」「バッファーをとる」などと表現できます。

「バッファーになる」

 「緩衝役・調停役になる人」をバッファーと呼ぶ場合もあるようです。「看護師が医師と患者のバッファーとなる」のような場合がそうです。

「バッファー処理中」

 コンピューター分野では「入力と出力の間に置いてデータを一時的に蓄える記憶領域」をバッファーと呼びます。(注:この分野では、カタカナ語において語尾の長音符号を省略する慣習があります。そのため、コンピューター関係の用語で「バッファ」という形もよく見られますが、本稿では「バッファー」という表記で統一します。)

 例えばネットで動画を観るとき「バッファー処理中」といった表示とともに再生が止まってしまうことがあります。これは「ネットからの入力が何らかの原因で途絶えたため、バッファーの中身も尽きてしまい、画面出力もできない」ことを意味します。

 バッファーを含む複合語も数多く存在します。たとえば、バッファーとして用いる記憶領域を「バッファーメモリ」、バッファー領域を超過する分量のデータを書き込む不具合(またそれに伴う脆弱(ぜいじゃく)性)のことを「バッファーオーバーフロー」と呼びます。キーボードで入力した情報を一時蓄える「キーバッファー」、プリントするデータを処理する「プリンターバッファー」などの語もあります。

「バッファーゾーン」

 異なる地域の間に存在して、互いの影響の緩衝する役割を持つ地域のことをバッファーゾーン(緩衝地帯)と呼びます。この言葉は政治(地政学)や環境などの分野で登場します。地政学では「大国に挟まれた緩衝地域」を指し、環境問題では「自然保護地域と人間の活動域の間に設定する緩衝地帯」を指します。また世界遺産(ユネスコ)の取り組みでは「保護される遺産を取り巻く地帯」を指します。

化学の「バッファー」

 化学分野では「緩衝液」のことをバッファーと呼びます。外部から酸や塩基を加えても pH(水素イオン指数)が大きく変化しない溶液のことです。

言い換えたい場合は?

 ビジネス分野のバッファーを言い換える場合は「余裕」「ゆとり」を用いるのが良いでしょう。対象に応じて「日程の余裕」「予算のゆとり」「人材の余裕」「物資の余裕」などと表現する方法もあります。在庫管理の場合は「予備」とも言い換えられます。

 専門用語のバッファーを言い換える場合は、定訳があるかどうかを探してみてください。例えば鉄道車両のバッファーは「緩衝器」、地政学のバッファーステートは「緩衝国」、地政学・環境のバッファーゾーンは「緩衝地帯」、化学のバッファーは「緩衝液」との定訳が存在します。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

爪磨(みが) 美容の分野では「爪を磨くための道具」をバッファーと呼んでいます。このバッファーも英語で buffer と綴るのですが、ここまでに述べた buffer とは別の語源を持つ言葉です。
爪磨きの buffer の場合は、「磨く」を意味する buff に「~するもの」を意味する -er が付いている構造。いっぽう緩衝を意味する buffer は、それ自体がひとつの言葉となります(柔らかいものを殴るときの音が語源とみられます)。

バファリン ブリストル・マイヤーズ社が開発、ライオンが販売している鎮痛・解熱薬『バファリン』。ライオンのウェブサイトによると、この商品名は buffer(バッファー)と Aspirin (アスピリン/アセチルサリチル酸)を合成した言葉だといいます。「胃にやさしいアセチルサリチル酸」という意味を込めているそうです。

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【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

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【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら

2017年 5月 13日