続 10分でわかるカタカナ語

第29回 NPO(エヌピーオー)

2017年10月7日

どういう意味?

「非営利団体」のことです。

もう少し詳しく教えて

NPO は英語の nonprofit organization を略した言葉で「非営利団体」または「非営利組織」を意味します。多くの場合「公益に資する活動を非営利で行う民間団体」を指します。ここで言う公益に資する活動とは、地域振興・福祉・教育・文化・人権など様々な分野で社会的課題を解決するための活動のこと。また民間団体とは、行政・企業以外の団体を指します(なお最広義として、社団法人・財団法人・医療法人・学校法人・宗教法人などを含める考え方もあります)。

この NPO に似た言葉に「NPO 法人」もあります。これは NPO 法(正式名称は「特定非営利活動促進法」)に基づいて登記できる、NPO 専用の法人格のことです。この登記を行っていない NPO は、法律上、任意団体という扱いになります。また「認定 NPO 法人」という制度もあります。これは NPO 法人のうち、一定の条件を満たすものに税制上の優遇措置を与える制度です。

もうひとつ、NPO に似た概念に「NGO」もあります。これは英語の nongovernmental organization を略した言葉で「非政府組織」のこと。これも NPO と同じく「公益に資する活動を非営利で行う民間団体」ですが、「国際的活動を主体とする団体であること」「非政府の組織であること」を強調する際に、この語を用いることが多いようです。代表的な NGO には「国境なき医師団」(1971年設立)などがあります。

さて NPO の概念で最も注意すべきは「非営利」が何を意味するのかという点でしょう。実は NPO の非営利とは「利益をあげないこと」ではなく「利益を分配しない」ことを意味します。例えば株式会社の場合、利益を経営者・従業員・株主に分配します。しかし NPO の場合、利益を会員・寄付者などに分配できません。利益はすべて目的の事業に再投資する必要があるのです。

これは逆に言えば「NPO であっても利益を上げてもよい」ことを意味します。実際 NPO の中には、商品・サービスの提供によって事業収入や利益を得ているところもあります。その利益を次の活動に再投資している点が、営利団体と異なっているのです。

また「利益を分配しないこと」は「職員に給与を出せないこと」ではありません。実際に NPO の職員を職業としている人もいます。これは、職員への給与を活動経費と捉えるためです。

どんな時に登場する言葉?

社会的課題が存在するあらゆる分野で登場する言葉です。例えば、医療・保健・福祉・地域振興・学術・文化・芸術・スポーツ・環境・災害・安全・人権・平和・国際協力・情報化・科学技術・雇用・消費者保護・NPO 支援など、あらゆる分野において NPO の活動が見られます。

どんな経緯でこの語を使うように?

諸外国で NPO に相当する組織形態がどう発展したのかは、本欄の手に余りますので詳細を省略します。

日本で NPO の重要性が認識された契機は、1995年の阪神・淡路大震災でした。このとき、被災者支援を目的とした NPO が数多く誕生したのです。しかし当時は NPO に法人格を与える制度が存在しなかったため「銀行口座の開設」「事務所の契約」「資金の借り入れ」などの場面で苦労を強いられる団体も少なくありませんでした。このような背景から1998年12月に NPO 法が施行され、「NPO 法人」と呼ばれる法人格が生まれたのです。

また2001年には「認定 NPO 法人」制度も始まりました。当初は認定要件が厳しく、使いにくい制度でしたが、2012年に新制度を導入したことで認定数が急速に増加しました。

なおマスメディアで NPO の使用例が急増したのは、おおよそゼロ年代(2000年~09年)のことでした。近年では「(非営利団体)」などの注釈なしで、この語が登場する記事も増えています。

NPO(エヌピーオー)の使い方を実例で教えて!

「NPO活動」

「NPO 活動」「NPO 支援」「NPO 団体」「NPO 組織」などのように、NPO+○○という形の表現が可能です。このうち NPO 団体と NPO 組織は、NPO の O が組織(organization)を意味することを踏まえると「重言」と捉えることもできます。とはいえ世間ではよく見かける表現です。

「環境NPO」

また「環境 NPO」「人権 NPO」などのように○○NPO という形の表現も可能です。○○の部分に、言及対象となる NPO の「活動分野」が入ることが多いようです。

言い換えたい場合は?

ふつう「非営利組織」または「非営利団体」を用いることができます。また、NPO 法に基づく NPO 法人を言い換える場合は、正式な用語である「特定非営利活動法人」を使うことができます。さらに同法に基づく「認定 NPO 法人」を言い換える場合も、正式な用語である「認定特定非営利活動法人」を用いることができます。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

「認証」と「認定」 NPO 法の関連用語のうち特に混乱しやすいのが「認証」と「認定」の違いでしょう。NPO には(1)任意団体の NPO (2)NPO 法人 (3)認定 NPO 法人が存在することは前述した通りです。このうち団体が(1)から(2)になるために必要となるプロセスを「認証」と呼び、(2)から(3)になるために必要となるプロセスを「認定」と呼びます。
 認証・認定のいずれも、NPO の申請にもとづき所轄庁(都道府県・政令市)が判断を行います。このうち認証は、書類の不備などがなければ通過できる簡易なプロセスであるため、行政によるお墨付きを「意味しない」点に注意する必要があります。

筆者プロフィール

もり・ひろし & 三省堂編修所

新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

編集部から

「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。

「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。

これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。

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