今週のことわざ

燕雀(えんじゃく)(いずく)んぞ鴻鵠(こうこく)の志(こころざし)を知(し)らんや

2007年11月26日

出典

史記(しき)・陳渉世家(ちんしょうせいか)

意味

つまらない人物には大人物の遠大な志はわからないということ。「燕雀(えんじゃく)」は、「つばめ」と「すずめ」。「鴻鵠(こうこく)」は、「おおとり」と「くぐい」という大きな鳥。小さな鳥にどうして大きな鳥の心がわかるだろうかという意味。

原文

陳渉少時嘗与人庸耕。輟耕之壟上、悵恨久之曰、苟富貴無相忘。庸者笑而応曰、若為庸耕。何富貴也。陳渉太息曰、嗟乎、燕雀安知鴻鵠之志哉。
〔陳渉(ちんしょう)(わか)き時、嘗(かつ)て人の与(ため)に傭耕(ようこう)す。耕を輟(や)めて壟上(ろうじょう)に之(ゆ)き、悵恨(ちょうこん)することこれを久しうして曰(いわ)く、苟(いやし)くも富貴(ふうき)とならば相忘るること無けん、と。庸者(ようしゃ)笑いて応(こた)えて曰く、若(なんじ)庸耕を為(な)す。何ぞ富貴ならんや、と。陳渉太息して曰く、嗟乎(ああ)、燕雀(えんじゃく)(いずく)んぞ鴻鵠(こうこく)の志を知らんや、と。〕

訳文

(秦(しん)が中国を支配したとき、陽城(ようじょう)《=河南(かなん)省》に)陳渉(ちんしょう)という男がいた。小作人として働いていたが、耕作の手を休めて畔(あぜ)に行き、身の上を嘆くことしばらくして言った。「もし自分が偉くなったらお前たちのことを忘れずにいてやろう。」すると仲間たちは、笑って答えた。「お前さんは人に雇われて耕している。なんで富貴を望めようか。」陳渉はため息をついて言った。「ああ、燕(つばめ)や雀(すずめ)のような小鳥に、どうして鴻(おおとり)や鵠(くぐい)のような大きな鳥の気持ちがわかるだろうか。」

解説

陳渉(ちんしょう)は秦(しん)に対して、初めて反乱を起こした人物で、一度は楚(そ)の王となった。しかし結局は失敗して、天下を取ることはできなかった。しかし、司馬遷(しばせん)は、彼のそうした先駆的な行動を、独自のものと評価し、『史記(しき)』の中で、諸侯の記録である世家(せいか)に入れている。

類句

◇燕雀(えんじゃく)(いずく)んぞ大鵬(たいほう)の志(こころざし)を知(し)らんや◆鷽鳩鵬(がくきゅうほう)を笑(わら)

筆者プロフィール

三省堂辞書編集部