著者ごとのアーカイブ

続 10分でわかるカタカナ語 第4回 ガバナンス

2017年 3月 25日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「ガバナンス」の意味と使い方

どういう意味?

 「統治・支配・管理」のことです。

もう少し詳しく教えて

 ガバナンス(governance)は英語で「組織などをまとめあげるために方針やルールなどを決めて、それらを組織内にあまねく行き渡らせて実行させること」という意味で、「統治・支配・管理」という語に相当します。

 「統治」というと「権力者」が「国」を治めるイメージを思い浮かべますが、ガバナンスの主体は「権力者」とは限りませんし、ガバナンスの対象も「国」とは限りません。

 例えば近年では、コーポレートガバナンス(企業統治)という概念をよく見聞きします。この概念の場合、ガバナンスの主体は「株主」などで、ガバナンスの対象は「企業」ということになります。

どんな時に登場する言葉?

 政治や経営の分野でよく登場する語ですが、実は「統治すべき組織・仕組み」が存在するあらゆる分野で使われる言葉でもあります。例えば情報通信の分野では、国際的な通信ネットワークであるインターネットの運営や管理のことを「インターネットガバナンス」と呼んでいます。

どんな経緯でこの語を使うように?

 マスメディアでガバナンスという言葉をよく見かけるようになったのは1990年代のことでした。例えば新聞では、「ガバナンス」が登場する記事数が1990年代後半に増えました(注:毎日・朝日・産経・読売調べ)。これは当時、コーポレートガバナンスの概念が注目されたことが背景にあります。なぜ、この時代に注目度が高くなったのかは後述します。

ガバナンスの使い方を実例で教えて!

ガバナンスを強化する

 ガバナンスと結びつきやすい言葉には「強化・向上・改善・確立・改革・発揮」などがあります。例えば「強化」の場合は「ガバナンス(の)強化」とか「ガバナンスを強化する」などの表現が可能です。このような表現によって「統治の影響力を強める」ことを表現できるわけです。

ガバナンス体制

 結びつきやすい言葉は、ほかに「体制・機能・構造」などもあります。例えば「体制」の場合は「ガバナンス体制」という複合語を作ることができます。これは「統治のための体制」を意味します。

コーポレートガバナンス(企業統治)

 株主などの利害関係者が、企業の経営を監視することを言います。経営陣による経営の私物化(それに伴う不利益)を防ぐこと、さらには企業の不祥事を防ぐことを目的としています。この場合、ガバナンスの主体は「株主などの利害関係者」、ガバナンスの対象は「企業(狭義には経営陣)」となります。

 この概念は1960年代のアメリカで誕生しました。当時、企業の様々な非倫理的な行動(黒人の雇用差別など)が問題になっていたことが背景にあります。いっぽう、日本で同概念が注目されたのは1990年代のことでした。バブル崩壊で倒産する企業が相次ぎ、経営健全化の手段として米国型の企業統治が注目されたためです。2000年代には企業の不祥事が相次いだことから、それを防ぐ方法としての企業統治も注目されました。

グローバルガバナンス

 環境問題や難民問題などの国際的な問題に対処する際、従来のように「国家」だけが主体になるのではなく、国家・企業・NGO(非政府組織)などの多様な主体が関与する仕組みのことをグローバルガバナンスと呼びます。この概念が登場したのは1992年のこと。冷戦後の国際社会で、社会課題の複雑化や広範化が進んだことが概念誕生の背景にありました。

言い換えたい場合は?

 多くは「統治」で言い換え可能です。コーポレートガバナンスを「企業統治」と言い換える場合が好例でしょう。「統治」につきまといがちな「国を治めるイメージ」を避けたい場合は「管理」や「運営」を使った言い換えも試してみてください。

 なおガバナンスが登場する文脈によっては「統治」ではなく「統治能力」「統治手法」などと言い換えると良い場合もあります。「ガバナンスの向上」を「統治能力の向上」と言い換えたり、「ガバナンス改革」を「統治手法の改革」と言い換えたりする場合がそうです。

 グローバルガバナンスのように単純な言い換えが困難な概念もあります。その場合は文章などで意味を補足するのが良いでしょう。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

舵取り ガバナンス(governance)に近い語として、「政府」を意味するガバメント(government)があります。そしてこれらの語源をたどると、ギリシャ語の kubernan に行き着きます(参考:New Oxford American Dictionary)。「舵取(かじと)り」を意味する言葉です。

  *  

◆この連載の目次は⇒「続 10分でわかるカタカナ語」目次へ

* * *

【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

*

【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら

続 10分でわかるカタカナ語 第3回 オルタナティブ

2017年 3月 18日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「オルタナティブ」の意味と使い方

どういう意味?

 「既存・主流のものに代わる(何か)」のことです。「オルタネイティブ」「オルターナティブ」ともいいます。

もう少し詳しく教えて

 オルタナティブ(alternative)は、もともとは「AとBから1つを選ぶ」、すなわち「二者択一」という意味です。そこで日本語の文章でも、オルタナティブがこの意味で使われる場合があります。例えば「コストと安全性はオルタナティブな関係であってはならない」といった用例がこれにあたります。ただし日本語では、このような使われ方はまれです。

 いっぽう英語では「Aに代わるB」という意味もあります。このうちAは、多くの場合「既存・主流の何か」を意味します。そこでオルタナティブは「既存・主流のものに代わる何か」という意味でも使われます。例えば「オルタナティブな政策」とは「既存・主流のものに代わる政策」を意味します。

どんな時に登場する言葉?

 あらゆる分野で登場する言葉です。また技術・貿易・医療・教育・音楽・投資などの分野では、オルタナティブ○○という語形の専門用語も存在します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 オルタナティブという概念が注目されたのは1960~1970年代のこと。この時代にオルタナティブテクノロジー、オルタナティブトレード、オルタナティブメディシン(オルタナティブメディスン)といった新概念が相次いで登場しました。

 このうちオルタナティブテクノロジーは「省エネルギーまたは無公害の技術」のこと。具体的には、再生可能エネルギー(風力・太陽光など)の利用技術などをさします。またオルタナティブトレードは、現在で言う「フェアトレード(公正貿易)」のこと。さらにオルタナティブメディシンとは「西洋医学とは異なる医療的手法」、すなわち漢方、鍼灸(しんきゅう)、ヨガなどをさします。いずれの概念も、既存・主流の手法とは異なる手法を提示しています。

オルタナティブの使い方を実例で教えて!

○○のオルタナティブ

 既存・主流のものではない何かを表現する場合に「○○のオルタナティブ」と表現することができます。例えば「既存・主流のものに代わる政策」のことを「政策のオルタナティブ」と表現できます。

オルタナティブな○○

 また同様の意味を「オルタナティブな○○」とも表現できます。例えば「既存・主流のものに代わる政策」のことは「オルタナティブな政策」とも表現できます。「オルタナティブな技術」「オルタナティブな働き方」などとも使われます。

オルタナティブ教育

 オルタナティブを含む複合語はたくさんあります。例えば「オルタナティブ教育」(代替教育)とは「伝統的または正規のものとは異なる教育方法や教育機関」を総称する概念です。日本におけるフリースクールなどがこれに該当します。

オルタナティブロック

 ロック音楽の世界では、オルタナティブロック(略称はオルタナ)と呼ばれるジャンルがあります。1980年代に「既存の商業主義的なロックへの対抗」として広まった音楽的傾向とされます。

オルタナティブ投資

 投資の世界では株式や債券への投資が、伝統的あるいは主流の投資手法とされます。そのいっぽうで「これに含まれない投資手法」のことを、オルタナティブ投資(代替投資)と呼んでいます。具体的には不動産、プライベートエクイティ(未公開株)などへの投資や、ヘッジファンド(投機的な運用を行う投資信託)の投資手法がこれに含まれます。

言い換えたい場合は?

 まず「オルタナティブな○○」を言い換えたい場合は「従来とは異なる○○」「主流とは異なる○○」「代替的な○○」「代わりの○○」「もうひとつの○○」「別の○○」などの表現を試してみてください。また名詞の「オルタナティブ」を言い換える場合は「代替(手段・手法・案…)」「別の可能性」「代わりの選択肢」などの表現を試してみてください。

 さらに複合語の言い換えについては、オルタナティブを「代替」に差し替える方法が定着しています。例えばオルタナティブ投資は「代替投資」と言い換えることが可能です。ただし単純な言い換えだけでは、言葉の背景を伝えることが難しいかもしれません。その場合は「言い換えようとする言葉が、従来の概念や主流の概念とどう違うのか」という点を考えて、文章を補足してみてください。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

ALT (オルト/アルト)キー  パソコンをお使いの方は、キーボードの中に「Alt」と刻印されているキーが存在することをご存知のことでしょう。この Alt とは、 alternate(=代替・交互)の省略形。つまり alternative の親戚ということになります。

  *  

◆この連載の目次は⇒「続 10分でわかるカタカナ語」目次へ

* * *

【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

*

【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら

続 10分でわかるカタカナ語 第2回 エビデンス

2017年 3月 11日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「エビデンス」の意味と使い方

どういう意味?

 「根拠」や「証拠」のことです。

もう少し詳しく教えて

 エビデンスは英語の evidence を由来とするカタカナ語です。英語の evidence には主に(1)根拠・証拠(2)証言などの意味がありますが、日本語のエビデンスはおおよそ(1)の意味で使われます。なお evidence の語源は、ラテン語の evidentia です。 evidentia は「明白であること」や「根拠」を意味します。

どんな時に登場する言葉?

 広い分野で使われる言葉です。例えばビジネス一般では「何かを裏付けるための具体的な情報・資料」や「言質(げんち:証拠になる約束の言葉)」などを指すことが多いようです。また医療の分野では「その治療法が良いといえる証拠」のことをエビデンスと言います。また近年では政治の分野でもエビデンスの登場機会が増えました。「政策の立案・評価のための(科学的)根拠」を指すことが多いようです。このほか様々な業界で、エビデンスが登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 一般社会でこの言葉が普及した時期は、ゼロ年代(2000年〜2009年)のことでした。例えば新聞でこの言葉が登場する記事の数は、ゼロ年代後半に増えています(注:朝日・読売・毎日・産経調べ)。また『現代用語の基礎知識』(自由国民社)では、2007年版以降にエビデンスの項目が登場しました。エビデンスの登場機会が増えた背景には、医療分野で EBM (evidence-based medicine)とよばれる新概念が注目されたことが関係しています。詳細は後述します。

エビデンスの使い方を実例で教えて!

エビデンスがない、エビデンスがある

 根拠・証拠の有無を語る場合に「エビデンスがある」「エビデンスがない」などと表現をすることが可能です。また証拠・根拠に立脚することを「エビデンスに基づく」と表現することもできます。このほか「エビデンスを得る」「エビデンスを収集する」などの言い方もあります。

EBM(根拠に基づく医療)

 1990年代以降の医療界で、 EBM(evidence-based medicine:エビデンス・ベースド・メディシン)とよばれる新概念が定着しました。これは「病気にかかった人に実際に使って、その効果が確かめられている医療」のことです(参考:国立国語研究所「『病院の言葉』を分かりやすくする提言」)。従前の医療がともすれば理論先行になりがちだったことの反省から誕生した概念でした。概念が誕生したのが1990年代初頭のこと。日本の医療界で注目されるようになったのは1990年代中盤のことです。以来、一般社会でもエビデンスというカタカナ語への注目度が高まりました。

そのほかの業界では?

 IT 業界では「開発したシステムがうまく動作しているかどうかを示すための証拠資料」を、エビデンスとよぶ習慣があります。また銀行業界では、融資の可否を判断するための資料(住民票、源泉徴収票など)などをエビデンスとよんでいます。

言い換えたい場合は?

 多くの場合、エビデンスを言い換える場合は「根拠・証拠・拠り所・裏付け」などの言葉が使えます。根拠・証拠の実態が「資料や情報」である場合「根拠となる資料」「証拠となる情報」などの言い換えも可能です。いっぽう医療分野におけるエビデンスの場合、単純に「根拠」と言い換えるだけでは「背景となる EBM の考え方」が伝わりにくいかもしれません。少々面倒ではありますが「その治療法が良いといえる証拠」などの文章表現を試してみてください。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

理解率はわずか8.5%  国立国語研究所が2009年にまとめた「『病院の言葉』を分かりやすくする提言」によると、エビデンスの認知率(言葉を見聞きした人の割合)は23.6%。理解率(意味を知る人の割合)に至っては、わずか8.5%しか存在しませんでした。エビデンスは「適切な言い換え」や「理解率の向上」が求められるカタカナ語のひとつといえるでしょう。

  *  

◆この連載の目次は⇒「続 10分でわかるカタカナ語」目次へ

* * *

【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

*

【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら

続 10分でわかるカタカナ語 第1回 インテリジェンス

2017年 3月 4日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「インテリジェンス」の意味と使い方

どういう意味?

 「知能・知性」のことです。「諜報」「情報収集」の意味としても使われます。

もう少し詳しく教えて

 インテリジェンスは、英語の intelligence を由来とするカタカナ語です。基本的には「知能」や「知性」を意味します。

 intelligence の語源をたどると、おおもとはラテン語の inter と lego という言葉に行き着きます。このうち inter は「〜の間」、いっぽうの lego は「何かを集める、ひろい集める」という意味。これが組み合わさって「ものごとをうまく識別できる」つまり「理解力がある」という意味をもつようになりました。そこで intelligence は「知能・知性」を意味するわけです。

 いっぽう安全保障・軍事の世界でもインテリジェンスが登場します。この分野におけるインテリジェンスは、敵や国際情勢などに関する「情報収集」や「情報分析」の意味をもつのです。ラテン語で登場した「何かを集める」「ものごとをうまく識別する」というイメージが、一般とは異なる形で生きていることになります。

どんな時に登場する言葉?

 「知能」や「知性」を意味するインテリジェンスは、あらゆる分野で登場する言葉です。またインテリジェンスを含む複合語は、ビジネスや情報通信などの分野で登場することも多いようです。詳細は後で述べます。いっぽう「情報収集」を意味するインテリジェンスは軍事や政治の分野でよく登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 日本語でインテリジェンスというカタカナ語が登場するようになったのは明治時代のことであるようです。ちなみに昭和初期の文献には、次のような用例が残っていました。物理学者で随筆家でもあった寺田寅彦が、顔の美醜について記した文章です。「おでこは心の広さを現わし、小さく格好よく引きしまった鼻はインテリジェンスとデリカシーの表象であり、下がった目じりは慈愛と温情の示現である、という場合もあるであろう。」(「破片」1934年11月)この場合のインテリジェンスは「知性」を意味します。

インテリジェンスの使い方を実例で教えて!

インテリジェンスを感じる

 何かに知性の高さを感じるような場合「インテリジェンスを感じる」「インテリジェンスが高い」などと表現できます。また「知的な」とか「賢い」という意味を表現する場合に、インテリジェンスを形容動詞化して「インテリジェンスな○○」などと表現する場合もあります。「インテリジェンスな機能を追加する」などの表現です。

情報収集機関

 インテリジェンス(情報収集・分析)には多くの複合語が存在します。例えばインテリジェンスサービスやインテリジェンスエージェンシーとは「情報収集機関」のこと(この場合のエージェンシーは機関・局などの意味)。またカウンターインテリジェンスとは「相手に対抗して行う情報収集」を意味します。さらに近年では「情報通信技術を利用した情報収集」を意味するサイバーインテリジェンスという概念も登場しました。ちなみにサイバーとは「コンピューターネットワーク」に関係することを意味する接頭語です。

ビジネスインテリジェンス

 ビジネス(経営)の分野では「企業が蓄積する情報を経営に活用すること」をビジネスインテリジェンス(BI)と表現します。またそのために利用する「データ分析用のソフトウェア」のことを、 BI ツール、 BI システムなどと呼んでいます。

インテリジェント

 intelligence(インテリジェンス)は英語の名詞です。これに対応する形容詞が intelligent (インテリジェント)。この言葉も「知性がある」とか「賢い」などを意味します。この言葉は、日本語では複合語として登場することが多いようです。例えばインテリジェントビルは「高度な情報通信機器の設置・利用に便利な設備を持つビルディング」という意味。インテリジェント材料は「環境変化に自動的に反応できる材料」という意味です。

言い換えたい場合は?

 知能・知性を意味する場合のインテリジェンスは「知能」や「知性」などと言い換えることができます。ただし「人工知能」のように定着した訳語が存在する場合は、それをそのまま使ってください。また「ビジネスインテリジェンス」のように言い換えが難しい概念も存在します。その場合は「企業が蓄積する情報を経営に有効活用すること」などの説明を加えてみてください。

 いっぽう安全保障・軍事分野のインテリジェンスは「情報収集」や「情報活動」「情報収集・分析」と言い換えることが可能です。実際、新聞や書籍などでは、このような言い換えがよく登場します。なお相手が専門家である場合は「諜報(ちょうほう)」という定まった訳語を使う方法もあります。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

インテリは何の略? 知識人や知識階級を意味する「インテリ」という言葉。一見するとインテリジェンスまたはインテリジェントの省略形のように見えます。しかしインテリの語源は英語でなく、ロシア語で知識階級を意味するインテリゲンチャ(интеллигенция)です。

IQ の I は? 知能指数を意味する IQ は、intelligence quotient の略。つまり IQ の I とはインテリジェンスのことなのです。

AI の I も? 人工知能を意味する AI は、artificial intelligence(アーティフィシャルインテリジェンス)の略です。アーティフィシャルとは「人工」を意味します。

  *  

◆この連載の目次は⇒「続 10分でわかるカタカナ語」目次へ

* * *

【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

*

【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら

次のページ »