続 10分でわかるカタカナ語

第7回 スマート

2017年4月15日

どういう意味?

「手際がいい」「洗練された」「ほっそりして格好がいい」に加えて、「賢い」という意味でも使われます。

もう少し詳しく教えて

英語のスマート(smart)はもともと「洗練された」、「賢い」、「すばやい」など多くの意味をもっています。日本語では「手際がいい」「洗練された」「ほっそりした」「格好いい」という意味で使われます。近年では、「賢い」の意味での使用も見られるようになっています。

「洗練された」という意味の「スマート」は、行動・態度・姿形(すがたかたち)を表現するときに登場します。例えば「彼の振る舞いはスマートだ」といえば、彼の行動・態度について「粋である」「気が利いている」といった意味を表します。また「彼の服装はスマートだ」だといえば、彼の姿形(服装)について「お洒落(しゃれ)だ」「格好いい」といったニュアンスを表しています。いずれも「洗練」という意味にまとめられるでしょう。

この意味に付随するのが、「姿形がほっそりしている」「やせている」という意味です。例えば「彼はスマートな体型だ」とか「スマートな形の機体だ」と言えば、身体や機体が「細い(細くて格好いい)」ことを意味します。実は英語の smart には、この意味が存在しません。

さらに近年では、「スマートフォン(smartphone)」のように英語の「賢い」の意味をもつ語が移入されて使われるようになりました。これらは、何かがIT(情報通信技術)によって高機能化している様子を表すものです。

どんな時に登場する言葉?

「洗練」を意味するスマートは、行動・動作・態度・外見などを表現する場合に登場します。また「細い」ことを意味するスマートは、人や物の外見をほめる際に登場します。そして「賢い」を意味するスマートは、ITを応用した機能・製品・サービス・概念などを表現する際に登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

「洗練」を意味するスマートは、少なくとも明治時代には使われていた表現だと思われます。また「細い」ことを意味するスマートも、少なくとも昭和初期には使われていた表現であるようです。

いっぽう「賢い」という意味のスマートが盛んに使われるようになったのは、ごく最近のことです。具体的にはゼロ年代(2000年~09年)の後半以降に、マスメディアでスマートを含む複合語をよく見かけるようになりました。この時期は、スマートフォンが世界的に普及しはじめた時期にあたります。

スマートの使い方を実例で教えて!

スマートな行動

「洗練されている」や「ほっそりして格好良い」を意味するスマートは、「スマートな」「スマートに」「スマートさ」などの形で使うことができます。例えば「スマートな行動」「長身でスマートな人」「彼のやり方はスマートさを欠く」といった具合です。

スマートフォン

ITの世界には様々な「スマートデバイス(smart device)」、すなわち「ITによって高機能化した装置」が存在します。例えば「スマートフォン」は高機能化した携帯電話端末のこと。「スマート家電」といえば、自動節電機能のついたエアコンや、外出先から中身が確認できる冷蔵庫などが挙げられます。このほか「スマートウォッチ(smartwatch)」「スマートスピーカー(smart speaker)」「スマートグラス(smartglasses /眼鏡型のコンピューター端末)」などの装置も存在します。どれも、ITを応用することによって、自動で動作を制御したり、従来のものにはない高度な機能が付加されたりしていることが特徴です。

スマートグリッド

環境やエネルギーの分野でも「ITによる高機能化」を意味するスマートが登場します。高機能化によって、エネルギー利用の効率化を図る取り組みが進んでいるためです。例えばその対象が送電網(電力の供給網)の場合は「スマートグリッド(smart grid)」、街全体の場合は「スマートコミュニティー(スマートシティー)(smart community)」、各家庭の場合は「スマートハウス(smart house)」と表現できます。

スマートキー

自動車の分野でもスマートを冠する言葉があります。例えば「スマートカー(smart car)」はITで高機能化した自動車全般のこと(自動運転車など)。また「スマートキー(smart key)」は、鍵となる機器を持ち歩いて自動車に近づくだけで、自動的に解錠などを行う機能をさします。

言い換えたい場合は?

行動・態度の「洗練」を意味するスマートは「洗練されている」「気が利いている」「手際が良い」「粋な」「颯爽(さっそう)としている」「格好良い」などと言い換えることができます。

また外見の「洗練」を意味するスマートは「洗練されている」「格好良い」「洒落ている」「さっぱりしている」「粋な」「身奇麗な」などと言い換えることが可能です。またカタカナ語でもよければ「スタイリッシュな」「クールな」(→クール)「シックな」なども使えます。

外見の洗練のうち「細い」を意味するスマートは「ほっそりしている」「やせている」「すらっとしている」などの言い換えが可能です。カタカナ語でもよければ「スリムな」とも表現できます。

「賢い」を意味するスマートは、(擬人的に)「頭のいい」「利口な」、または「高機能」や「次世代」と言い換えることが多いようです。スマートフォンを「高機能携帯電話」、スマートグリッドを「次世代送電網」とする場合などがそうです。いっぽう高機能・次世代にこだわらない方法もあります。例えばスマートシティーを「環境配慮型都市」と言い換える用例も存在します。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

語源は「痛み」 英語の smart には「痛み」や「ひりひりする」といった意味もあります。実は smart のもともとの意味は「肉体的な痛み」なのです。それがいつしか「精神的な鋭さ」を指すようになり、やがて「洗練」や「賢さ」の意味に繋がっていきました。

筆者プロフィール

もり・ひろし & 三省堂編修所

新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

編集部から

「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。

「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。

これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。

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