学習国語辞典(学習辞典)についての話題も、そろそろ締めくくりに近づいています。このあたりで、絵じてんについて触れておいてもいいでしょう。
絵じてんとは、カラーのさし絵を使って、ことばの意味を子どもにも分かりやすく示した辞典(または事典)のことです。対象年齢は、ざっと幼稚園入園前の子どもから小学校低学年といったところです。
私の娘も、幼稚園に通い始める頃から、絵じてんがお気に入りになりました。彼女はほとんど病院に行ったことはありませんが、「びょういん」のページで、「ほうたい」「しっぷ」「ガーゼ」といったことばを、絵とともに覚えたりしています。
子どもの行動範囲はごく狭く、新しいものごとに触れる機会はわりあい限られています。絵じてんは、子どもの体験を擬似的に広げてくれる道具のひとつです。
ことば一般を扱う絵じてんとして、『三省堂こどもことば絵じてん』、『三省堂ことばつかいかた絵じてん』、『くもんのことば絵じてん』(くもん出版)、『小学館ことばのえじてん』、『レインボーことば絵じてん』(学研)などがあります。このほか、漢字絵じてん、ことわざ絵じてん、けいご絵じてんなど、各社がアイデアを競っています。
絵じてんの編集のしかたは、大きく分けて、ことばを意味ごとに分類したもの(分類体)と、五十音順に並べたもの(五十音引き)とがあります。どちらを選ぶかは、子どもの性格や好みにもよりますが、年齢がひとつの目安になります。
分類体の絵じてんは、ひらがなが読めるか読めないかという年齢の子でも入っていけます。「びょういん」「どうぶつえん」「ごはんを たべる」「かいすいよくへ いく」などと、見開きが1つの絵になっていて、さまざまな事物が描きこまれ、名前が添えられています。じてんという意識もなく、絵本と同じ感覚で読むことができます。
五十音引きは、もう少し成長した子どもにとって、よりふさわしいでしょう。1ページが8つ程度のコマに分割され、その1つ1つにさし絵つきでことばの説明が載っています。「からだ」「くだもの」「さかな」などの基本的な項目では、絵を大きくして、関連する事物を描き、分類体ふうにしてあるページもあります。
美しく正確なじてんを
絵じてんに注文したいことは、2つあります。ひとつは、動詞の扱い方です。
絵じてんでは、動詞は、「たべる」「おきる」などの終止形を見出しに掲げてあります。それはいいとして、絵に添えてある例文までも、「ごはんを たべる」「あさ はやく おきる」など、すべて終止形になっています。ところが、幼児の言語生活では、こういった終止形は必ずしも多く使われません。
ある絵じてんを見ると、「たべる」の項目に描かれているのは、実際は、子どもがご飯を「たべている」ところです。「おきる」に描かれているのは、子どもが今「おきた」ところです。親が説明するとき、「これは『ごはんを たべる』だよ」と言うよりも、「ごはんをたべているね」と言い直したほうが、子どもにはよく分かります。
終止形も大事ですが、見出しだけで十分でしょう。例文は、状況に合った語形を使ってほしいと思います。終止形の続く例文は、読んでいて単調でもあります。
もうひとつは、より重要なことです。絵じてんの絵は、美しく正確であってほしいということです。
子どもは勉強しようと思って絵じてんを見るのではなく、まずは絵が美しいから、楽しいから読むのです。絵本と同じで、絵の美しくない絵じてんは、子どもの注意を引き止めません。わが家に数種ある絵じてんのうち、娘がいつも読んでいるのは、私の目から見ても絵の美しい本です。
美しい絵と、正確な絵というのは少し違います。たとえうまく描いてあっても、漫画的に誇張されて、不正確になっている場合もあります。虫や鳥がそんな描き方だと、「これはバッタだよ」と、そのまま教えていいものか、ためらわれます。
形だけでなく、色も重要です。娘に「オレンジジュース」と書いてある飲み物の絵を指して、「これは何色」と聞くと、「赤」と答えました。たしかに、その色はオレンジよりも赤に近い色です。やむをえず、トマトジュースということにしてしまいました。
絵が美しく、例文もよく練られた絵じてんを選んだとすれば、あとは、それを生かすも殺すも親次第です。「これは何?」「これは前に食べたね?」などと質問したりして、ことばを媒介に、親子のコミュニケーションを深めていければ言うことなしです。