前回は相手に残念な気持ち、同情の気持ちを伝える表現をみましたが、今回は言い訳表現を考えてみます。
「仕方がない」ということを表すのに「避ける、我慢する」の意の動詞 help を用いる表現があります。言い訳するのは通例話し手ですから言及されたことを it で受けて‘I can’t help it.’と言えば、「それを避けることができない」ことから「仕方ない」という意味になります。本辞典からの引用です。
2 仕方がないよ: 《迷惑がって》 “I wish you’d stop snoring all the time in bed.” “I can’t help it. I wish I could too.” 「寝てる間中ひっきりなしにいびきをかくのをやめてもらえない」「仕方がないよ. 俺だってできればそうしたいよ」.
「いびきをかくこと」が「避けられない、我慢できない」ことから言い訳表現になっています。また、そこから自分の行動に対する言い訳、つまり、そうせざるをえない理由づけにも用いられます。
3 〈渋々承諾して〉しょうがないなあ:《お金をねだる息子と父親》 “Dad, would you give me 10,000 yen? I’m clean broke today. Sorry!” “Well, I can’t help it!” 「パパ, 1万円くれない? 一文無しなんだよ! 悪いんだけどさあ」「うーん. しょうがないな」.
この不承不承の承諾には、この例のように、ことばとは裏腹に寛容な態度が表されることがあります。
以上の‘it’は先行文脈にその内容がありましたが、‘it’のところに「仕方のないこと」が具体的に述べられることもあります。
3 〈半ばあきらめて〉仕方がない, どうしようもない:I can’t lift even 10 kilograms of rice. I can’t help being old. 10キロのお米も持ち上げられない. 年には勝てないよ.
この例では歳をとっていることが10キロのお米を持ち上げられない言い訳となっています。
ここまでは主語を‘I’とした能動態の言い方でしたが、‘I can’t help it.’を受動態にした‘It can’t be helped.’という言い方もよく用いられます。
1 〈申し訳なさそうに〉仕方ありません:《機械の操作説明の場で》 The machine is going to make a terrible noise, but never mind. It can’t be helped. この機械はものすごい音がするでしょうが, 気にしないでください. 仕方ないんですよ / 《庭を眺めながら》 “My goodness, the lawn looks dead!” “It can’t be helped. There is no rain and water is rationed.” 「ああ, 何ということだ. 芝生が枯れてしまったみたいだ」「仕方ないわ. 雨は降らないし, 給水制限だし」.
この受動態では‘by me’が表現されないことに注意しましょう。動作主の‘I’が表面に出ていないということは‘it’の受ける内容が「私」の責任ではないことを示唆するのです。上の例では機械のひどい音や雨が降らないことの責任が「私」にないことを表しているのです。このように考えますと、次のような例は、場合によっては、帰宅しようと思えばできるのに、帰宅できないことをほかのことに責任を転嫁する言い訳表現と解釈することも可能となります。
2 〈言い訳として〉ほかにどうしようもない:《帰宅できない言い訳に》 I’ve got to go into London again tonight―—it can’t be helped. 今晩またロンドン入りしないといけないんだ. ほかにどうしようもないんだ.