しゃれ、なぞかけなど、ことば遊びと言われるものにはたくさんの種類があります。これらを辞書で説明するときは、少々センスが問われます。分かりやすくするためには実例がほしいのですが、いい例を出さなければ、かえって読者を悩ませてしまいます。
『三省堂国語辞典 第六版』の「しゃれ」の項目では、現在のところ、しゃれの例を示していません。示すまでもないとも言えますが、将来はどうするか、検討すべきところです。
その代わり、しゃれの一種の「地口(じぐち)」には、次の例が添えてあります。
〈例、猫(ネコ)に小判→下戸(ゲコ)にご飯。〉
短くて分かりやすいと思いますが、どうでしょうか。以前の第二版(1974年)では〈かんじょう合って、ぜに足らず→まんじゅうあって、ぜに足らず〉の例を出していましたが、ちょっとぴんと来ません。第三版(1982年)から上のように変わりました。
今回の第六版では、新しく「なぞかけ」の項目を立てて、次の例を出しました。
〈例、「ウナギ」とかけて、「傘(カサ)」と解く。その心は「ひらいて さす」。〉
「なるほど、うまい」と思っていただければ幸せです。もっとも、これは私たちの創作ではなく、明治時代の本に入っているなぞです。これも短くて分かりやすいので、辞書に載せる例にふさわしいと考えました。
第六版では「アナグラム」も入りました。〈ある語句の文字の順序を ならべかえて、別の語句にする遊び〉です。これも、具体的に説明するために、例を示しました。
原稿段階では「すなやま」(砂山)→「なやます」(悩ます)の例を書き入れてありましたが、「なやま」の部分が入れ替わっていないところに不満が残りました。もっといい作品はできないものでしょうか。
そこで、コンピュータの力を借りて、例を作ることにしました。5文字のことばを機械的に並べ替えて、意味のあることばだけを取り出します。その結果、最も自然で分かりやすかったのが、次の例でした。
〈例、「かいばしら」→「ばからしい」。〉
「なんだ、ばからしい」なんて、どうか言わないでください。一つのことば遊びの例を決めるに当たっても、このように、けっこう苦労しているのです。