政権交代が起こって以来、連日、目新しいニュースが続いています。10月には日本郵政の新しい社長が、新政権の方針に沿って決まりました。私はこういったニュースからとても目が離せません。政治への関心からということもありますが、「『三省堂国語辞典』の次の版はどうなるんだろう」と考えるからでもあります。
『三国』と日本郵政とは、浅からぬ因縁があります。もちろん、辞書の上での話です。世の中のことばの変化を積極的に採り入れようとする『三国』は、制度が変われば、それをていねいに反映しようと努めます。『三国』の第六版の校了は2007年11月ごろでしたが、その1か月前、10月1日に日本郵政株式会社が発足しました。それで、校了間際の慌ただしいときに、すべりこみで「JP」という項目を入れました。
原稿段階では、会社の発足と、第六版の刊行と、どちらが先になるか分からないので、とりあえず「日本郵政公社」という項目を予定していました。それが、直前になって、「日本郵政株式会社」に差し替えられました。でも、辞書の項目として一民間企業の長い名称が載るのは違和感もあり、結局、略称の「JP」が採用されました。「JP」は、第六版の新規項目の中でも、いちばん最後に決まった項目のひとつということになります。
郵便事業の変遷とともに、『三国』の記述はいろいろと変化しています。なかでも移り変わりが激しいのは、「郵便局」の語釈です。
「郵便局」は、『三国』の前身『明解国語辞典 初版』では、〈逓信大臣の管轄の下に、郵便の事業を取扱ふ役所。〉となっていました。これが戦後の改訂版では、〈郵政大臣の管理のもとに……〉に変わり、『三国』でも、初版から第四版まではほぼ同じ説明でした。ところが、2001年の中央省庁再編を経て、第五版では〈総務省の管理の もとに、郵便・郵便貯金などの仕事を取りあつかう所。〉に変わり、さらに、2003年には日本郵政公社が発足したため、途中の刷りから〈日本郵政公社の管理の もとに……〉と修正されました。
今回の第六版で、「郵便局」は〈郵便・貯金・保険の窓口業務などをあつかう・会社(事務所)。〉と改められました。街の郵便局の様子はさほど変わらないのに、語釈だけがぐるぐると変わっているのは、おかしくもあります。次の第七版では、どういう語釈に変わるのか、それとも変わらないのか。私にもまだ分かりません。