(菊武学園タイプライター博物館(5)からつづく)
「Franklin Typewriter」は、1891年から1907年頃にかけて、ボストンのキダー(Wellington Parker Kidder)が製作したタイプライターです。40キーのモデルと42キーのモデルがあり、40キーのモデルはNo.1・No.3・No.5・No.7・No.9という奇数のモデル番号が、42キーのモデルはNo.2・No.4・No.6・No.8・No.10という偶数のモデル番号が、それぞれ付与されていたと考えられています(Richard Earl Dickerson: The Franklin Typewriters, ETCetera, No.1 (1987年10月), pp.2-5)。この菊武学園タイプライター博物館が所蔵する「Franklin Typewriter」は、モデル番号が記されていないものの、40キーで、フロントパネルにオールド・イングリッシュ書体の「The Franklin.」が描かれ、後部右側に記された製造番号が「5001」であることから、1895年製造の「Franklin Typewriter No.3」だと思われます。前面中央の銘板には「PAT. DEC. 8TH 91 OTHER PATS PEND’G.」とあるので、その後(1892年以後)にキダーが取得した特許(たとえばU.S. Patent No.471794)との関係が気になりますが、それでも1895年製造で間違いないでしょう。
「Franklin Typewriter」の特徴は、独特のカーブを描くキーボードと、ダウンストライク式という印字方式にあります。この「Franklin Typewriter」では、40キーが3列のカーブ上に配置され、キー配列そのものはQWERTYに近いのですが、「V」と「B」の間に大きなスペースバーが挟まっていたり、「L」が下段「M」の右横に配置されていたりします。「X」の手前にあるのがシフト、「M」の手前にあるのがシフトロックで、プラテンを前後させることで各キー2種類の文字が打てるようになっています。
フロントパネルの後ろには、40本のタイプバー(活字棒)が、キーボードと同じくカーブを描いて配置されています。タイプバーはそれぞれがキーにつながっており、キーを押すと対応するタイプバーが打ちおろされて、プラテンの上に置かれた紙の上面に印字がおこなわれます。紙の上に印字がおこなわれるので、オペレータがフロントパネルの向こうを上から覗き込めば、印字された文字を確かめることができるのです。多少、見にくくはあるものの、打った直後の文字を確認できるという点で、ダウンストライク式の「Franklin Typewriter」は、かなり画期的なタイプライターだったのでしょう。