地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第245回 大橋敦夫さん:「方言エール」の発展例・補足(石巻市+新潟市)

筆者:
2013年3月16日

第236回「「方言エール」のまとめー3」で、「表面は意志ですが、“皆さんも一緒に”の気持ちです。」とふれられている「まげねど」を用いた方言グッズがあります。

「ばっぱは、負げねど」[=おばあさんは、負けないぞ!/石巻市などの方言]をあしらった、これらのグッズ(手ぬぐい・Tシャツ・フラッグ【写真1】など)を作るのは、その名も「ばっぱコーポレーション」。

(写真はクリックで全体表示)

【写真1】
【写真1】フラッグ
【写真2】
【写真2】チラシ(表)
【写真3】
【写真3】チラシ(裏)

宮城県石巻市鹿妻地区の主婦の皆さんの集まりで、東日本大震災後、ティッシュケースや置物などを製作。新潟市でのイベント参加がきっかけとなって、同市内のデザイン会社の協力により、オリジナルの復興キャラクター「ばっぱ」が誕生、商品展開となりました。

ばっぱコーポレーションのお知らせチラシ「石巻かづま ばっぱ通信vol.03」には、

 「鹿妻地区は石巻市の中でも東側なんだっちゃ!」
  「ばっぱがいる石巻かづまへ来てけらいん!」

など、石巻のコトバでの呼びかけもなされています。

石巻弁を用いたいきさつについて、ばっぱコーポレーション代表の齋藤ヒロ子さんは、

「ばっぱグッズの販売で、私たちの思いを十分に伝えることができるのは、普段使いの石巻弁だからだと思います。共通語の「がんばろう!」より「がんばっぺ!」「がんばっちゃ!」、おなじく「まけないぞ!」より「まけねぇど!」「まげねぇでば!」とすると、強い表現になります。飾らない方言には、安心感もあり、取り入れました。」

と、話されています。

取材の最後に、「これからも、この大震災を忘れることなく、語りついで下されば幸いです。」と語られ、言葉を交わす私たちも「一緒に」していただいたように感じています。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。