地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第244回 山下暁美さん:イバラキズム宣言 Declaration of “IBARAKISM”

筆者:
2013年3月9日

「イバラキズム宣言」というのは、茨城弁教育委員会が茨城弁を通して茨城を正しく理解してもらおうという目的のスローガンです。

(写真はクリックで全体表示)

【写真1】
【写真1】茨城弁Tシャツ
【写真2】
【写真2】ゆっくり走っぺ

茨城弁Tシャツ【写真1】を購入して、どのような基準でIBARAKI OFFICIAL LANGUAGES を選んだかを茨城弁教育委員会のメンバーの青木さんに聞きました。青木さんは、茨城弁教育委員会のサイトを13年間運営しています。その経験の中で茨城を代表する特徴のある表現や、よく知られていておもしろいと感じたことばをリストアップしたとのことです。「ゆっくり走っぺ」【写真2】のステッカーも茨城弁教育委員会の作品です。方言と運転マナーを結びつけた点は、さすが教育委員会です。

Tシャツには、ややネガティブな意味があっても温かみのあることばは入れたそうです。例えば、「ごじゃ」や「でれすけ」などは、ネガティブな言葉ですが、「馬鹿」や「アホ」といわれるより、どこか温かみがあるイメージなので含めたというわけです。

「ごじゃ」は、「ごじゃっペ」「ごじゃらっぺ」ということがありますが、「いい加減、ばか」という意味です。「でれすけ」とは、「だらしない、間抜け」といった意味でネガティブな意味になりますが、温かみがあるとのことです。「~っぺ」は「走っぺ」にもありますが、助動詞「ベシ」の連体形「べき」がイ音便化して「べい」になり、さらに「べ」「ぺ」に変化したもので「そうだべ」「行くっぺ」など文末の終助詞です。

方言イメージについて、NHK全国県民意識調査(1979・1996)によって、方言が「好き・嫌い」と「恥ずかしい・恥ずかしくない」の組み合わせで全国を大きく4つに分けることができます。それによりますと茨城県人は、茨城弁を「嫌い」で「恥ずかしい」と答えた人が多いです。これは1979年と1996年の20年、30年以上前の調査結果ですから、その後の茨城弁のイメージは変わった可能性もありますし、今まさに変わろうとしているときとも考えられます。これまでの茨城弁のイメージを変革し、茨城県を明るくて楽しいイメージにしようという意気込みが見られます。

ラヂオつくばが「イバラキングのごじゃっぺラジオZ」を、いばキラTVが「いばキラTVStation」で、「茨城弁しゃべっぺよ~」というコーナーを設けるなど、茨城弁の楽しさ温かみが強調されています。「ごじゃっペ観光協会」は、PRが下手な茨城、観光に弱い茨城を払拭しようと立ち上がった架空の団体とあります。

茨城弁教育委員会は、『いばらぎじゃなくていばらき』の著者青木智也さんが中心となっていろいろな活動をしています。青木さんのプロフィールは茨城弁と標準語を自在に使いこなすプチバイリンガルと紹介されています。表向きは、茨城弁教育委員会は架空の団体で茨城弁太郎先生が委員長ということ以外は謎に包まれているとのことです。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 山下 暁美(やました・あけみ)

明海大学客員教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは、言語変化、談話分析による待遇表現、日本語教育政策。在日外国人のための「もっとやさしい日本語」構想、災害時の『命綱カード』作成に取り組んでいる。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』 『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。